第二幕、御三家の嘲笑
 がたがたなんて馬鹿みたいな擬態語が伴っているかのように体が震え始めた。怖くないはずなのに、なんで? 笛吹さん事件のときと、同じはずなのに、違うのはなんで? 学校だったから? 誰か来てくれるって気付いてたから? 御三家の領域(テリトリー)だと思って安心してたから? 私が抵抗しても傷付く人がいなかったから? 鼓動している心臓が破裂しそうだった。寧ろ破裂してほしかった。これから起こることを考えると寒心に堪えない。そんなことするなら殺してと、どくどくどくどくと波打つ心臓は恐怖を主張している。


「あーあ、本当に泣いちゃった? ダイジョーブ、怖くないよーってね」


 ギャハハと、下品な笑い声が響いて、ぽつ、と腕の上に水滴が落ちた。ぱちぱちと数度瞬きする。ぽたぽたっ、とまた水滴が零れた。ぐっと顎を掴んで上向かされた。ぎゅう、と唇を引き結ぶ。


「やっべー、泣かせちゃった」

「泣き顔結構ツボなんだけど、代わんね?」

「お前だって物好きじゃん。どーせ泣きやまないって、カラダ優先」


 酷く、情けない涙が次々に零れた。この期に及んで未だ、私は我が身可愛さに幕張匠だということを黙っている。幕張匠と分かれば遊び染みたこの行為が本気のものに――憎悪を晴らすためのものになってしまう。自分勝手な私にはそれが怖い。今ナイフを取り出したこの人が恨んでるのは桐椰くんだったり松隆くんだったりしても、リーダーの男がこの人達を集めたのは幕張匠がいたからだ。幕張匠が仕出かしたこととこの人達がすることとに大小の差はあっても、報復なんだから文句は言えない。私が幕張匠だと告白すれば雅も半殺しにされるかもしれないから――なんて憂慮は実はただの言い訳だと言われても言い返せない。

 結局、私は私が強姦されるのが怖くて御三家に頼った。

 ぶちぶちと、キャミソールの繊維が、胸元から差し入れられたナイフで切られていく感触が走る。ぼろぼろと溢れた涙が頬を伝った。私が招いたことだから、泣く権利なんてないはずなのに、本当に私は馬鹿だ。

『なんで、亜季だけが……』

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