第二幕、御三家の嘲笑
 リーダーの男が鼻で笑いながら二人に喋るのが聞こえる。


「まだ写真送って十分とかだぜ? 菊池のストーカーでもしてたか?」

「その通りだよ」


 きっと冗談のつもりだっただろうに、松隆くんの声が肯定する。あぁん?と、小さな疑問が聞こえた。


「俺達を嫌いな菊池が、この俺の目の前で、桜坂に手を出すと宣言したんだ。何かあると思わないわけがない」


 未だ解放されたわけでもないのに、月影くんの胸に頭を預けてしまった。さっきとは別の涙が零れた。松隆くんの読みの深さに安堵した。


「……桜坂に何かしたか?」

「いやぁ? 俺はあの女に手出さねぇって約束をしちまったからつまんなかったんだよな……あのカラダ、ただの餌じゃ勿体ねぇよなぁ?」


 それでも、まるで同意を求めるような言い方に体が震えるのが分かる。ついさっき触れられた首と肩、キスされた鎖骨と撫でられた胸と、そこから全てが腐っていくような感覚に襲われる。気持ち悪い、吐きそうだ。どくん、どくん、と響く心臓の音が月影くんに伝わっている気がした。

 それでも、背中に回っていた月影くんの手が上書きでもするように肩を軽く叩いてくれて、少しだけ呼吸が整う。ほんの、少しだけ。


「あァ、悪ぃな。松隆のかと思ったが、桐椰の女だったか?」

「……誰のでもねぇよ」

「へぇそれなのにわざわざ助けに来たわけだ?」


 あの御三家がその程度の女のために腰を上げるなんて、と、そう言われている気がした。


「はっ……そりゃいいこと聞いた。要はあの女は正真正銘御三家の姫だってことだ!」


 リーダーの男の声が、宝物でも発見したように大声で笑う。


「残念だったぜ、マジで! あと二分ありゃ全裸に剥けたってのによ!」

「……あの恰好をさせたのはお前か?」

「ちっげーよ、あの女が勝手に脱ぎやがった。雅になにもしないで、ってな。くっそ笑えたな!」


 ハハハハハッ、と嘲笑が響き渡る。息を潜めている月影くんに見下ろされた気がしたけれど、その心は伝わってこなかった。私達は見つからないために極力身動きをとらないようにしなければならない。


「菊池がやられるたびに泣きそうな顔してやがった。雅、雅って叫びやがる。菊池殴ンだけでも面白ぇのに、とんだ遊び道具(オモチャ)がついてきたもんだ」


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