第二幕、御三家の嘲笑
 笑い声だけが聞こえていた。二人が何を考えているのか、表情は見えないせいで分からなかった。ただゆっくりと、カラカラカラ、と鉄をコンクリートの上で引き摺る音がする。


「……ま、おまけだけどな。あの女犯()ンのは、お前ら殺った後でもいい。お姫様のヒーロー、来てくれて安心したぜ」

「……そうだな。お前らが待ってたのは俺達だ」


 その声は、桐椰くんが本気で怒ったことなんて今までなかったんじゃないかと思うほど――自惚れでなければ――憎悪に満ちていた。


「さぁお待ちかね」


 カラカラカラッ、と鉄がコンクリートの上を引き摺られる音が大きくなった。冷ややかな声の桐椰くんが、珍しく皮肉を吐き捨てた。


「ヒーローショーの、始まりだ」


 ガシャァンッと金属同士のぶつかり合った音が耳を(つんざ)くように響き渡った。月影くんが頭を抱え込むように器用に耳を塞いでくれる。お陰で中心で何が起こったのか分からなかったし、そのまま月影くんが耳を解放してくれるまでのタイムラグで人の身体が叩きつけられる音は小さくしか聞こえなかった。それでも喧騒がものの数十秒で収まるとはいかなくて、「総!」と桐椰くんが松隆くんを助けるような声とか、「ナイフとれ!」とか不穏な遣り取りが聞こえた。次いで、キィン、とまた金属音が響く。金属とコンクリート……ナイフだ。きっと弾き飛ばしたんだろう。ほっと安堵すると、目の前の月影くんがごそごそ動いて、上着代わりにしていたシャツを背中から羽織らせてくれた。喧嘩の音のお陰で、もう音がしても気付かれないだろう。シャツは薄手でガーゼみたいな生地だったけれど、裏地がトリコロールになっているお陰で透けなさそうだ。ただし手を縛られているせいでボタンを留めることはできない。おそるおそる見上げると、月影くんは顔をしかめ、仕方なさそうにボタンを留めてくれた。腕を袖に通すことはできないせいでテルテル坊主みたいに間抜けな恰好になっていた。嫌味でも言われるかなと思って月影くんを見上げていたけれど、予想外にも何も言われなかった。


「……月影くん」

「何だ。言っておくが俺はあの二人と違って君を守る(すべ)を持っていないぞ」

「それは別に……。えっと、外に出たりしてたほうがいいのかなって」

「君のその恰好では無理だろうな」

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