第二幕、御三家の嘲笑
「でもここにいたら迷惑なんじゃないかなって、」

「確かに見つかるとまずいな」


 言葉の通りに眉間に皺を寄せ、月影くんはそっと様子を窺う。私からも少しだけ見えたけれど、誰かが転がるように外に出ていくのが見えたくらいだった。


「……大丈夫かな」

「大丈夫だろう」

「……わかんないじゃん」

「確率の話をしてるんじゃない。信じる信じないの話をしている」


 松隆くんと桐椰くんなら大丈夫、ではない。松隆くんと桐椰くんなら大丈夫でいてくれる、そう思うこと。月影くんが私には手向けることのない、それは信頼。普段ならなんとも思わないはずなのに、心細い場所にいるせいか余計に気持ちが消沈していく。


「……うん」

「分かったら少し静かにしろ。アイツらが派手にやってくれてるせいで気付かれないとは思うが――」

「あァ、まだいンじゃん」


 瞬間、ビクッ、と条件反射で体が震えた。その声を聞いただけで柄にもなく月影くんの胸に身体を寄せてしまった。月影くんの腕に気持ち力が籠る。詳しい経緯は知らずとも私の態度だけで誰なのか分かる、そんな様子だった。実際、私は顔を向けることもできない。でも……、平気なはずだ。確かにこの人は〝やばい〟部類には入るけれど、逃げていただけでそんな人には沢山会ってきた。今更怖いもなにもない。……それなのに、どうしてか顔をあげることができない。


「……人質を探しに来たのか?」

「御三家のもう一人か。いかにもお勉強しかできませんって顔だな?」


 顔なんて見なくても笑っているのが分かる。月影くんの腕に籠る力が強くなった。


「……戻らなくていいのか? 仲間がやられているだろう」

「仲間ァ?」


 可笑しなことを言う、と言われている気がした。もしくはそんな単語知らないとでもいうように、きっとその口元は歪んでいる。


「ンなこと言われたら寒気走るつーか胸糞悪ィわ」

「……お前は総か遼に用があるんじゃないのか」

「そのつもりだったんだけどなぁ、予定が変わっちまった」


 どくどくと心臓の音がうるさくなった。引き渡されたくない、でも月影くんに迷惑はかけられない。雅があの有様なんだ、何をされるか分からない。


「ソイツ貸せよ、お前だけクソ雑魚いってことは分かってンだ」


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