第二幕、御三家の嘲笑
「松隆グループのお坊ちゃんの顔には見覚えがあるな。カツアゲされそうになってると思ったら返討ちにしてんの見たことある」
大物になっても護衛は不要そうで何よりだ……。伊達に桐椰くんと一緒に武道を習ってないということだ。お金持ちの情報が先行しやすいから言われていないだけで、もしかしたら松隆くんも桐椰くんと同じく武道の有段者なのかもしれない。
「あっちの金髪は……見覚えないなあ」
「あ、彼方の弟だよ」
「はあ!?」
どうでもよさそうに桐椰くんを思い浮かべていたはずの雅の顔が豹変した。
「全ッ然似てねぇじゃん!」
「だよね。私も言われるまで気付かなかったもん。っていうか、覚えてるんだね」
「嫌なヤツほど忘れねぇよ俺は! くそー、早く言えよ、言われたら殴ってたよ!」
「それを聞いて言わなくて良かったって思ってるよ」
雅は、理由は分からないけれど彼方のことをずっと毛嫌いしていた。嫌悪とか憎悪とか、そんな大げさなものではないのだけれど、生理的に気に食わないとでもいうのだろうか。馬が合わないというか、なんというか。苛立ちで雅の肩が震える。
「あの野郎……今思い出してもぶん殴りたい、何かと理由をつけて亜季にベタベタしやがって……」
「今は大学生だよ、三つ年上だから。大阪にいるって言ってた」
「会ったのか!?」
「この間文化祭に来てたの。あ、桐椰くん――彼方の弟は何も知らないよ? 私が彼方に会って、彼方から弟だって聞いただけだし――」
「あ!」
丁度横断歩道の前で立ち止まり、雅は大声を上げて私を指さす。きょとんと目を丸くしていると、雅はわなわなと震え出した。
「まさか……噂になってる御三家の姫って亜季のことか!?」
……ああ、どうやら文化祭は思った以上に面倒事を齎してくれたようだ。学外にまで噂が広まるなんて聞いてない。しかもここ最近学校内で聞いていた的外れな、まさに流言だ。
「……私のことだけど、姫じゃない」
「そっか、下僕って言ったな」
「あっさり納得しないでよ」
「亜季があんな奴等に心許すわけねーじゃん」
ふん、とどこか満足したように雅は鼻で笑った。無言で肯定すれば「ほらやっぱり」と片方の口端だけが吊り上がった表情が降って来る。
大物になっても護衛は不要そうで何よりだ……。伊達に桐椰くんと一緒に武道を習ってないということだ。お金持ちの情報が先行しやすいから言われていないだけで、もしかしたら松隆くんも桐椰くんと同じく武道の有段者なのかもしれない。
「あっちの金髪は……見覚えないなあ」
「あ、彼方の弟だよ」
「はあ!?」
どうでもよさそうに桐椰くんを思い浮かべていたはずの雅の顔が豹変した。
「全ッ然似てねぇじゃん!」
「だよね。私も言われるまで気付かなかったもん。っていうか、覚えてるんだね」
「嫌なヤツほど忘れねぇよ俺は! くそー、早く言えよ、言われたら殴ってたよ!」
「それを聞いて言わなくて良かったって思ってるよ」
雅は、理由は分からないけれど彼方のことをずっと毛嫌いしていた。嫌悪とか憎悪とか、そんな大げさなものではないのだけれど、生理的に気に食わないとでもいうのだろうか。馬が合わないというか、なんというか。苛立ちで雅の肩が震える。
「あの野郎……今思い出してもぶん殴りたい、何かと理由をつけて亜季にベタベタしやがって……」
「今は大学生だよ、三つ年上だから。大阪にいるって言ってた」
「会ったのか!?」
「この間文化祭に来てたの。あ、桐椰くん――彼方の弟は何も知らないよ? 私が彼方に会って、彼方から弟だって聞いただけだし――」
「あ!」
丁度横断歩道の前で立ち止まり、雅は大声を上げて私を指さす。きょとんと目を丸くしていると、雅はわなわなと震え出した。
「まさか……噂になってる御三家の姫って亜季のことか!?」
……ああ、どうやら文化祭は思った以上に面倒事を齎してくれたようだ。学外にまで噂が広まるなんて聞いてない。しかもここ最近学校内で聞いていた的外れな、まさに流言だ。
「……私のことだけど、姫じゃない」
「そっか、下僕って言ったな」
「あっさり納得しないでよ」
「亜季があんな奴等に心許すわけねーじゃん」
ふん、とどこか満足したように雅は鼻で笑った。無言で肯定すれば「ほらやっぱり」と片方の口端だけが吊り上がった表情が降って来る。