第二幕、御三家の嘲笑
「なんともねぇよこのくらい! 総、全員片付いたのかよ!」

「自分はいいとこどりしといて偉そうに言うな。終わったよ」


 冷ややかな声の主、松隆くんは苛立たし気に桐椰くんに向かって舌打ちした。桐椰くんは素早く身を(ひるがえ)して、私を置いてけぼりに「早かったな」「半分は逃げたからな。お前が技決めるせいで戦意喪失だよ」と松隆くんと喋りながら立ち去ってしまった。呆然として立ち尽くす私の背後の月影くんが溜息を吐いた。


「……月影くん」

「意識が戻ると困るな。俺達も行くぞ」


 振り返った先の月影くんは、倒れている男を一瞥して、未だ意識がないのを確認する。そして私の足元を見て顔をしかめた。


「……いま裸足は危ないな」

「わっ、」


 突然その手が膝下に滑り込んだかと思うと、体を持ち上げられた。私の手が不自由なせいでおんぶができなかったのだろう、とはいえ月影くんにお姫様抱っこ……。そんな力が月影くんにあるとは思ってもみなかった。第一、あんなに私に暴言を吐き続ける月影くんがそんな気遣いをみせてくれるとは想像もしなかった。近くにある顔を見つめ続けるのは少し恥ずかしいので目を逸らす。そのまま連れ出された工場内は薄暗いままだったけれど、地面に散らばるスマホが全部懐中電灯機能ONの状態で転がっていて、そのお陰で点々と光があった。スマホ以外にはさっきまで笑ってた人達のうち四人が死屍累々と言わんばかりに転がって呻いている。足りない人数は敵わないと察して途中で逃げたのだろう。床にはガラス片が散らばっていて、確かに裸足は危なそうだ。月影くんが屈んでサンダルを履かせてくれたとき、少し奥から松隆くんがナイフを拾い上げて戻って来た。ナイフを手渡された月影くんに見降ろされるので、ロープを切ってくれるということかと腕を上げる。ただ、そうなるとシャツが捲れてお腹が見えてしまった。身長差があるとはいえシャツの丈はパンツを隠すか隠さない程度だ。月影くんはなるべく見ないよう心掛けるように眉間に皺を寄せている。


「……不可抗力だから許すよ?」

「そんな話はしていない」


 結び目にナイフの先を入れると、月影くんはあまり刃を使うことなくロープを解いてしまった。解放された手首をシャツの中に垂れ下げると、すかさずワンピースを渡された。


「着るか?」

「……うん。ありがとう」

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