第二幕、御三家の嘲笑
「どういうことか説明してもらおうか、菊池」

「ま、って、」

「お前は黙ってろ」

「……どういうこと、って」


 雅の力のない目が周囲を見渡した。その目が私を見てくれることはなかった。


「惚けんな。どういう状況だ、これは。まさかお前がアイツを売るとは思ってなかったんだけどな?」

「ちが、」

「菊池、お前に訊いてる。答えろ」

「……別に。お前ら気に食わねーって言ってたら、亜季使って(おび)き寄せようって話になっただけだ。亜季には手出さない約束だったから」

「その結果がこれ? 笑わせるなよ」


 鼻で笑う松隆くんの目が一ミリたりとも笑っていない。


「説明しろ、菊池。お前が俺達を嫌いなのはどうでもいいが、はいそうですかと桜坂を差し出すわけはないな? お前、何の弱味握られてた?」


 弱味――そうか、弱味だ。幕張匠の元相棒ですなんて、カモがネギを背負い込むに等しいと言っても過言ではない。雅を襲いたい理由が跳ね上がる。私に何もしないという言葉を信じたのは安易だったけれど、御三家を差し出して済むならと思っただろう。

 その鴨葱(かもねぎ)状態は、もしかしたら桐椰くんから見てもそうかもしれない。幕張匠の名前に敏感に反応する桐椰くんとの間に何があったかなんて何も覚えてないけれど、もしも敵意を向けられているのだとしたら――そしてその確率が圧倒的に高い――雅が何をされるか分からない。

 だったら、もう、私が告白してしまったほうがいい。ごめんなさい、全部嘘ですと。雅は幕張匠だった私を庇ってくれただけなんだと。それなら御三家が私を捨てて話は終わる。

 そう、御三家が私を捨てて、終わるだけだ。どくどくと心臓がまたうるさくなる。今日だけで随分と寿命を使ってしまった気がする。今度は御三家との関係が終わる。もう守ってもらえない。生徒会と何があっても何もしてもらえない。他の一般生徒と同じくカツアゲくらいからは助けてもらえるかもしれないけれど、それだけだ。それだけで――松隆くんに言葉で弄ばれることも、月影くんに罵倒されることも……、桐椰くんを揶揄って遊ぶことも、なくなる。でも、それだけだ。ただ、それだけ――。

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