第二幕、御三家の嘲笑
「順序としてはおそらく、菊池が幕張匠の元相棒だとバレたのが最初だろう。その幕張匠が何なのか、詳しいことは俺にはよく分からないが、他の不良から恨みを買うには十分な素行を繰り返していたというんだろう? その元相棒となれば甚振(いたぶ)られるのも必至」


 この界隈で有名なのは松隆くんと桐椰くんだけだと雅が言っていたのに、なぜ。


「菊池には今は高校でつるんでいる別の友人がいる。杯戸(はいど)正隆(まさたか)……彼は所謂不良の(たぐい)に全く縁がないようだ。菊池自身、このように巻き込まれることはあっても自ら渦中に飛び込むことはない、要は既に足を洗っているんだろう? それだというのに今になって杯戸と一緒に捕まり、杯戸にも桜坂にも手を出されない取引が総と遼を売ることだった。違うか?」


 そんな話、知らない。雅の口からは何も聞いていないけれど、そもそも説明してくれる暇なんてなかったのがその理由だと思っていいのだろうか。そもそも月影くんが言っている〝調べている途中〟とは何を調べていたのだろう。少なくとも松隆くんも桐椰くんも口を挟む気配はないから三人の共通認識ではある。そしてそれと矛盾もしていないことが分かる。


「まぁ、菊池にとっては道理だろう。仲の良い友人と元彼女と、付き合いのないお前達二人、どちらか捨てろと言われて迷うはずもない。とはいえ、取引内容の認識の甘さと、その結果桜坂を危険に晒した、その現実は非常に情けないものだと思うがな」


 どうして、雅は私に何も言ってくれなかったんだろう。今はもうこういった類の人達と一緒にいることはなくなったとか、中学三年生のときには引っ越してただとか、そんなことは知らなかった。あんなにずっと一緒にいた雅のことを、私はもう何も知らない。


「本当か、菊池」


 がくんと桐椰くんに胸座を揺さぶられた雅が舌打ち混じりに頷いた。松隆くんは「本当にそれだけか?」と雅を睨みつける。


「お前が桜坂に接触してきたのはつい二、三週間前だな。で、俺の前でデートの約束を取り付けたのが今週の話だ。今回のことはいつから仕組んでいた? 桜坂と再会して今日に至るまでの間か、そもそも桜坂に再会する前か」

「……亜季に会った後だ。亜季に会ってるのを見られたんだよ」

「嘘だと分かったら族の新車に監禁するぞ」

「松隆くん!」

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