第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂、まだコイツ庇うの?」


 冷ややかな声が、口を挟むことすら許してくれない。


「何もしないから桜坂を差し出せと言われた? 馬鹿言うな、何もしないわけがないだろ? 悪意しかないし、ないとしたらすごぶる頭が悪い。関わるだけ迷惑だ」

「……そんなこと言わないで」

「負い目でもあるの?」


 だったら今ここで謝罪して関係を絶て――そう、目だけで告げられた。私と雅の間に何があるか、松隆くんは知らない。幕張匠について勘づいているのかと思ったこともあったけれど、今まで幕張匠の名前が出たときにそんな素振りはなかったから恐らく気付いてない。でも言わなきゃ――。


「俺は亜季にとって、幕張匠の代わりだったんだよ」


 それなのに、小さく、雅が呟いた。松隆くんの目も桐椰くんの目も雅に移る。ぎゅうっと喉が締め付けられた。


「雅、」

「亜季の好きだった人は、幕張匠だ」

「やめて雅! お願い、もう私は――」

「俺は匠の親友だったけど、亜季が好きだった。亜季は匠が好きだったけど、匠はいなくなった――亜季の寂しさを埋めてくれる人がいなくなったんだ。だったら俺で埋めてくれればいいって言って、付き合ってた。亜季が俺を利用してたって罪悪感抱いて、俺から離れられなくなればいいって思ったんだ。……思惑通り、ってやつだよ」


 私が本当のことを言うから、そう言う暇を与えて貰えなかった。全部、全部、嘘。口から出任せの出鱈目(でたらめ)だ。どうしてそこまでして庇ってくれるの。私は雅を捨てたのに、勝手に関係を絶ったのに、そんな状態になってまで、どうして。

 言葉を失った私に、漸く雅の目が向けられた。


「……でもね、亜季。俺が亜季と一緒にいたのは、俺のためだよ。俺だって寂しかったから、亜季と一緒にいて紛らわそうとしてた――亜季を利用してた。俺達はお互いにお互いを利用してただけなんだ」


 ずっとずっと、喉が苦しい。卑怯だって分かってるのに泣きだしてしまいたかった。それは、雅が私のために嘘を吐いてくれたからだけじゃない。

< 175 / 438 >

この作品をシェア

pagetop