第二幕、御三家の嘲笑
 中学生の私は、寂しかった。幕張匠になったのは寂しさを埋めるためで、雅と一緒にいた理由のどこかに、それでも埋まらない寂しさを埋めることが、きっとあった。喧嘩を繰り返して存在を誇示する日々の中で偶々出会った雅、いつからか隣を歩くようになった雅、気付いたら部屋で一緒に他愛のない話までするようになっていた雅。その間、私ばっかり雅を利用してると思ってた。だから、その告白だけは――雅も私を利用していたことだけは――嘘じゃないと、信じたかった。


「……ねぇ亜季。友達だと思ってた相手が、実は自分のことを友達と思ってくれてないなんて、裏切りもいいとこだよね」


 裏切りじゃない。そんなの何も悪くない。


「亜季を裏切ってたのは俺だった。……ずっと、本当に……冗談じゃなくて、好きだったんだよ、亜季」


 それでも、次の告白は嘘だと言って欲しいと、どこかで思ってしまった。だってそんなの、雅がずっと苦しかっただけだ。何も言わないでずっとそばにいてくれた雅のことを何も理解しないまま、好き勝手に付き合わせただけだ。そんなの、本当だったら、私はどう雅に謝ればいい。何をどう謝っても、足りない――。


「……殴りたいなら殴れよ、桐椰」


 私から視線を外し、雅は自嘲気味に笑った。


「お前の同情を引きたくてした話じゃない。俺は亜季に話しただけだ。お前が俺を気に食わないと思うなら殴ればいい」


 殴ってほしいと言っているようにすら聞こえるその声だって、本当は必要ないものなのに。


「……初めて会ったときから、ぺらぺらとうるせぇヤツだな、本当に」


 舌打ちした桐椰くんは――ゆっくりと手を離した。


「自分の顔、鏡で見ろよ。……んな顔してるヤツ、殴れるわけねぇだろ」


 雅は背後に凭れて俯いて、黙った。松隆くんはどこか疲れたように、お人好しだなとでもいうように小さな溜息を吐いて、視線を彷徨わせる。ややあって工場の入口へ向かうと、隅に置いてある鞄から財布を取り出すと、「駿哉」と月影くんに放り投げた。


「来る途中にホテルあったろ。そこに桜坂連れて行って。必要ならその足で服買ってきて」

「あぁ」

「待って……、私、まだ雅と、」

「コイツと、ここで、何すんの?」


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