第二幕、御三家の嘲笑
「最初はただ御三家のメンツと仲良しなだけかと思ったけど、そうだよな。噂が本当なら御三家が特定の女子と仲良くするはずないし」

「そうだね、私も御三家が女子と喋ってるの、事務連絡か生徒会との喧嘩くらいしか見ないもん」

「でも従えられてるってどういうこと?」

「ん、ちょっとした取引だったの。それだけ」

「……ふぅん。それにしては随分な反応だったけどなあ」


 確かに、松隆くんのあの台詞には驚いた。どうやら気に入ってもらえたらしいけれど、腹黒リーダーの考えることだ、その真意を決めつけるのは尚早というもの。桐椰くんに至っては無視なのだから酷いものだ、明日は仮にも元カノだよ、なんて言って揶揄おう。

 そんな呑気なことを考えたついでに、また別の面倒事を思い出してしまった。げんなりと疲弊した表情に変わった私に構わず、雅は「でも安心した!」と明るい声を出す。


「名前聞くまで亜季だって分からなかったんだけどさ、傍目には絶対どっちかと付き合ってるように見えたから。まあ侮れないけどな、あの坊ちゃん」

「あのさー、雅……」


 そんなことはどうでもいいんだ、私と彼等が傍目にどう見えるかなんて。松隆くんはきっとずっと胸の内を晒さずにいるだろうし、月影くんは塩対応だし、素直にリアクションをとってご丁寧に何でもぺらぺら喋っちゃうのは桐椰くんだけだ。だからどう見えるかなんて大した問題じゃない。


「なんで元カレなんて嘘吐いたの?」


 問題なのは、雅の言動だけだ。半ば睨むように見上げて見せるのに、雅は全く身に覚えのない誹りを受けたかのように眉を八の字にしてみせるだけだ。


「別に良くない?」

「よくない」

「でも亜季も訂正しなかったじゃん」

「訂正すると誰なのか説明しなきゃいけなくなるじゃん」

「あー、なるほど、確かに」


 ふむふむ、と雅はわざとらしく顎に手を当てて同意した。


「幕張匠の相棒です、なんて、特に不良の桐椰の前じゃ言えないよね」


 じろりと雅を()め付けると「別にバラしたりしないよ」と器用に両手を挙げてみせた。


「じゃ、やっぱ桐椰も知らないんだ?」

「知ってるわけないじゃーん。桐椰くんの前では煽り態勢強いだけの女の子だよ、私は」


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