第二幕、御三家の嘲笑
「……少し時間をくれない?」


 ちらと振り返った一室には、ベッドとソファがある。月影くんなら同じ空間にいても怖くない。


「……桐椰くん達と合流する前に聞かせてほしい」

「……聞きたいか?」


 ふ、と月影くんは自嘲するような笑みを浮かべた。月影くんがそんな表情をするなんて珍しい。


「君が幕張匠だと分かったということは、俺は君の過去を――君が知られたくないと感じたかもしれない過去を、知ってしまったということになる。俺に君の過去を復唱する権利があるのか?」

「……いいよ。聞くよ」


 珍しいのは、表情だけじゃない。御三家と出会ってすぐ、桐椰くんが私の家族構成を知っていたのとは裏腹に、月影くんは興味がないと言い放った。そんなものに自分の脳の容量を割くのは勿体ないと。その月影くんが、私の過去を辿れた理由は何だろう。

 月影くんは促されてもなお躊躇していたけれど、暫くして部屋のなかに入った。ソファに座り込み、私がベッドに座るのを待って、腕を組む。


「……前置きをしておく。俺は――こう言うべきかは分からないが――解に辿り着いたものの、途中式が正しいかは分からない。そして君が知られたくないままだというなら訂正もしなくていい」

「……ん」

「……本当は、知るつもりなどなかった」


 まるで悪いことをしてしまったかのように、月影くんは額を押さえた。


「……雅のことを調べることにしたのはどうして?」

「菊池の接触があまりにわざとらしかったからだ」


 丸一年以上連絡すらとっていなかったのに、突然花高の校門に現れた雅。でもそれは関係を知っている私達自身しか抱かないはずの違和感だ。


「俺は君と菊池との関係について総と遼からしか聞かされていなかった。元カレだと言い張るわりにはどうもそんな雰囲気はない、だが桜坂自身も否定しない……興味のない話題ではあった。しかし、総が執拗に訝しんだ。菊池は、敢えて総と遼――おそらくは御三家に見せつけるように君と接触したようにしか見えなかったと。台詞も言葉もわざとらしかった、用意した台本を喋ってるのでないとしたら伏せている事実があるとしか思えないと」


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