第二幕、御三家の嘲笑
「では、アキという名前のつく女子に心当たりはないか、そう訊ねようと思った。とはいえ、計算高い君のことだ。菊池との接点が中学以外にないにも関わらず菊池とあれほど親密で且つ周囲がそれを認識できていないということは、菊池と対極とさえ思われない位置にいようとしたはずだ。菊池と関わり始めたのが中学入学直後とは限らないが、その仮定を置くことで筋が通る。そして選ぶべき地位は、優等生でも不良でもない、美女とも醜女とも言われない、どこにでもいそうな女子」


 その推測は、事実に限りなく近い。でもそれは全く選択肢が絞れていないことを意味するにも等しい。それで私を特定することはできないはずだ。


「だから訊ねはしたものの、望む回答が来るとは期待してなかった。……そして友達の答えは、〝さぁ、覚えがない〟だった」

「だったらどうして……」

「だからこそだ」


 無作為に選んだ高祢中学出身者に訊ねると、亜季という名前に覚えはないと言われた。回数を重ねればきっと証明されただろう、私という人間が他者に認識されていない確率が高いこと。


「それほどまでに印象の薄い君と、その程度しか同期を認識していない者すら認識している菊池とが親密なのはなぜだ?」


 そしてその証明は、その最大の矛盾を裏付ける。


「君は誰にも気づかれずに菊池と親密であった。それにも関わらず、君と菊池はつい最近再会した。その時、君が驚いた様子こそあれ憤慨した様子はなかったと聞いている。……つまり、君と菊池は何らかの理由で穏便に関係を断っていた」


 その理由は、幕張匠がいなくなったから。


「だが確定的に繋がるにはまだ足りなかった。全てが分かったのはつい先程――遼が菊池が幕張の相棒だと口にしたときだ。幕張の噂は俺も知っていた。高祢中学の制服を着ているが所属中学が不明、そのまま行方不明になって数年、最早ただの都市伝説のようなものだ。そして菊池は相棒だという幕張の所在に執着しない代わりに君に固執した。何らかの理由で親密な君にだ。……菊池が親しかったのは、幕張匠である君だったのではないかと、俺の中で仮説が立った」


 飛躍がないことはなかった。あくまで仮定だった。


「そして、俺が口走った、菊池が友人を人質にされたという嘘……あれが嘘だということは、幕張匠と君が同一であることを基礎づける事実の一つとなる」


< 183 / 438 >

この作品をシェア

pagetop