第二幕、御三家の嘲笑
「松隆くん達には……、迷惑かけてごめんなさいって思ってる。でも、迷惑かけたのは私なんだよ。そんなに雅にばっかり目くじら立てないでよ。雅がこうしたのは私のためだったんだから――」
「は? 桜坂のため?」
「総」
「俺は言っただろ? 本当にそうだとしたら笑うしかないな?」
「おい総」
「コイツのやったこと本当に分かってんの? 狼の群れに羊投げ込むことが羊のためだったとはね、俺の知ってる気遣いだとか親切だとかとは随分違うんだな?」
私の台詞を訊き返したとき、松隆くんの目の色は変わっていた。完全に、逆鱗に触れた。一瞬体が強張り、静観を決め込んでいた桐椰くんが遂に口を挟んだ。
「ちょっと黙れよ、総。お前の言いたいことは分かるけど言い方ってもんがある」
「あぁ分かってるよ。普通に言ったんじゃ桜坂が理解しないからこういう言い方をしてるんだ」
それでも松隆くんが口を閉じることはない。それどころか余計に加速した雅への侮蔑に、自分の立場も忘れて頭に血が上る。
「雅の事情だって分かってよ。雅にだって――」
「幕張匠を差し出せば済む話だった。そうだろ?」
だから雅は私のためにそれをしなかった――。
「総、分かった、一回落ち着け。俺が――」
「話すことはお前でも俺でも同じだ」
肩を掴んでまで静止した桐椰くんの手を松隆くんが振り払う。幕張匠と私は同一人物だと、言いたいのに、言えない。最早私が言いたくないなんて話だけじゃない、ここで白状するというのなら、月影くんと雅の嘘は何だったんだ。松隆くんの目が雅を一瞥する。
「聞かせてくれよ、桜坂。幕張匠は一体どこにいる?」
そんなの、答えられるわけがない。
「本当に、死んだのか?」
びくんと、震えた体が硬直した。雅が、そう言ったのだろうか。もう誰も探さないようにそう答えてくれたのだろうか。
「まぁ俺の知ったことじゃない。コイツは、幕張を裏切りたくないから桜坂を売ったってことだ」
「……そうじゃない」
「そういうことだろ。そんなことをしておきながら告白までして同情をひきたいわけじゃない? 寝言は寝て言えって話だ」
「やめてよ」
「本当に桜坂を売りたくないならコイツが死ぬまで殴られればよかったんだ」
「やめて!」
「は? 桜坂のため?」
「総」
「俺は言っただろ? 本当にそうだとしたら笑うしかないな?」
「おい総」
「コイツのやったこと本当に分かってんの? 狼の群れに羊投げ込むことが羊のためだったとはね、俺の知ってる気遣いだとか親切だとかとは随分違うんだな?」
私の台詞を訊き返したとき、松隆くんの目の色は変わっていた。完全に、逆鱗に触れた。一瞬体が強張り、静観を決め込んでいた桐椰くんが遂に口を挟んだ。
「ちょっと黙れよ、総。お前の言いたいことは分かるけど言い方ってもんがある」
「あぁ分かってるよ。普通に言ったんじゃ桜坂が理解しないからこういう言い方をしてるんだ」
それでも松隆くんが口を閉じることはない。それどころか余計に加速した雅への侮蔑に、自分の立場も忘れて頭に血が上る。
「雅の事情だって分かってよ。雅にだって――」
「幕張匠を差し出せば済む話だった。そうだろ?」
だから雅は私のためにそれをしなかった――。
「総、分かった、一回落ち着け。俺が――」
「話すことはお前でも俺でも同じだ」
肩を掴んでまで静止した桐椰くんの手を松隆くんが振り払う。幕張匠と私は同一人物だと、言いたいのに、言えない。最早私が言いたくないなんて話だけじゃない、ここで白状するというのなら、月影くんと雅の嘘は何だったんだ。松隆くんの目が雅を一瞥する。
「聞かせてくれよ、桜坂。幕張匠は一体どこにいる?」
そんなの、答えられるわけがない。
「本当に、死んだのか?」
びくんと、震えた体が硬直した。雅が、そう言ったのだろうか。もう誰も探さないようにそう答えてくれたのだろうか。
「まぁ俺の知ったことじゃない。コイツは、幕張を裏切りたくないから桜坂を売ったってことだ」
「……そうじゃない」
「そういうことだろ。そんなことをしておきながら告白までして同情をひきたいわけじゃない? 寝言は寝て言えって話だ」
「やめてよ」
「本当に桜坂を売りたくないならコイツが死ぬまで殴られればよかったんだ」
「やめて!」