第二幕、御三家の嘲笑
 声を荒げて、半ば怒鳴るような松隆くんの声に、私のほうが怒鳴り返した。口論に気付いていながらも我関せずを決め込んでいた人達が遂に振り返る。雅の様子も相俟って余計に視線を集めた気がした。でも、そんなことはどうでもいい。


「……どうして、そんなこと言うの」


 松隆くんは、透冶くんを喪って、その言葉の重みを分かっているはずだ。それは当然御三家全員に当てはまることで、月影くんが、蝶乃さんから桐椰くんを庇ったなんて理由で私を信頼してくれたのだってそうだ。透冶くんが――親友だった幼馴染が、誰にも悩みを言えずに死んだから、二度とそうならないように、互いの繊細な傷を殊更に気に掛ける。そんなことを知っているから分かる、松隆くんの言葉は本物だ。冗談でも悪態でもなく、本気で死んでいいと思ってるからそう言うんだ。


「……死んじゃだめ。雅は、死んじゃ、だめなの。だからそんなこと言わないで」


 他人の無価値を決めつけるその言葉を、どうしてこんなタイミングで聞くことになってしまったのだろう。


「亜季、もういいよ」


 ゆっくりと、雅が物理的に私と松隆くんとの間に割って入る。松隆くんの顔は不快げに歪んだ。見上げた雅は距離が近いせいで満身創痍なのが余計に分かった。


「……よくないよ」

「いいよ。ありがとう、亜季」


 私に背を向けて、雅は松隆くんに頭を下げる。


「松隆、亜季を助けてくれてありがとう。迷惑をかけて、悪かった。桐椰も月影も、ありがとう。お陰で亜季は無事だった」

「お前からの謝罪も感謝もどうでもいい」


 それを無下にするように、松隆くんは吐き捨てる。


「問題は今後のお前がどうするかだ。まさかまだ桜坂に付きまとうつもりじゃないだろうな?」

「だからそれは――」

「あぁ、もう、近寄らないよ」


 私が口を挟む前に遮られ、そのまま雅は私を振り向いた。ちょっとだけ寂しそうに無理矢理笑った。


「元々、亜季と俺の繋がりなんて、匠がいなきゃなかったも同然だったんだ。匠がいなくなっちゃったんだ、もう俺との繋がりなんてないも同然だろ?」


 ふるふると首を横に振る。幕張匠はもういなくても、私と雅の繋がりを否定なんてさせない。それなのに、それを口に出すことはできない。今日の私は、自分で自分の首を絞めてばかりだ。


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