第二幕、御三家の嘲笑
 実際、その最大の原因同士での会話開始の合図があった瞬間、月影くんの表情が珍しく硬直した。どうせなら何も言わずに最寄駅まで黙っていてくれと言わんばかりだったけれど、そうもいかない。松隆くんは無表情で私に視線だけ寄越す。


「……助けにきてくれてありがとう。怒鳴ってごめんなさい」

「…………」

「でも、二度と雅に死んでもいいなんて言わないで」

「アイツが、そんなに大事?」


 私の言葉に是とも非とも答えない。ただ、もうその声は落ち着いていた。まだ怒ってはいるのかもしれないけれど、声の調子はいつも通りだった。


「……大事だよ。大事な友達だよ、雅は」

「あんな目に遭ったのに?」

「何されても、雅を好きなのは変わらないよ」


 正確には、よっぽどのことがあれば好きではなくなってしまうのかもしれない。でも雅はそんなことはしない。私が雅のことを嫌いになるようなことを雅はしないし、そんな雅だから、私は雅を好きでいるのかもしれない。鶏が先か卵が先かとは、こういうことを言うのだろうか。


「松隆くん達がお互いを大事なのと同じくらい、私にとって雅は大事なんだ」


 松隆くんはやっぱり何も答えなかった。

 お蔭様でというべきか、やっぱり電車の中の空気は重かった。最寄駅に着いたとき、松隆くんが真っ先に口を開いたけれど「遼、桜坂送って。じゃ」と言うだけで私達の返事も待たずに帰ってしまった。月影くんは気まずそうに眉間に皺を寄せていたけれど、「気を付けて帰れよ」と松隆くんを追いかけていってしまった。私と桐椰くんが黙々と夜道を帰ることになる。


「……桐椰くんも、ありがとね。助けに来てくれて」

「……あぁ」

「来るの早かったよね。あれ、どうして?」

「……菊池が怪しいって言って、最初からつけてた。お陰で男三人で水族館に行く羽目になったよ」


 肝心なときになって見失ったけどな、と桐椰くんはぼやいた。そっか、だから近辺にはいても工場に来たのは場所を連絡してからだったのか。


「でも来たときも、なんかこう、すごかったじゃん? ブレーカー、偶然じゃないよね?」

< 190 / 438 >

この作品をシェア

pagetop