第二幕、御三家の嘲笑
「あぁ、俺達が落とした。で、様子見に出てきたヤツをボコって、中の人数吐かせて、ブレーカー分からなかったって言わせながら中に一緒に入った。あとは、まぁ、お前の近くにいたヤツがスマホ持ってたから、それ目印にスマホぶん投げて、その明かりで大体の人数把握し直したって感じだ」


 要領の良さに舌を巻いてしまう。救出作戦に慣れているというか、よくそんなことを咄嗟に思いつけたというか。


「御三家って有名なだけあるんだねぇ」

「……今回は偶々上手くいったけど、次もそうとは限らないから。あんま俺の前からいなくなるなよ」


 その台詞に面食らうと同時に、ぽっと心が温かくなる。今日の桐椰くんは、なんでか私が好きな言葉ばかりくれる。ぽんぽん、とまた頭を撫でられた。私が辛い気持ちでいると思って甘やかしモードに入ってくれているのかもしれない。ふふ、と笑った。


「桐椰くんは、優しいね」

「なんだよ、馬鹿にしてんのか」

「してないよ。本当に本当。桐椰くんは、優しいよ」


 隣にいると、安心する。ほくほくする。ワンピースの入った紙袋をゆらゆら揺らしながら笑ったけれど、桐椰くんからしたら煽っているようにしか聞こえないのかもしれない。やっぱり、狼少年のようなものだ。


「……あのさ。総が言ったこと、許せとか、そういうことは言わねーけど。アイツ、今回のことすげー怒ってたんだよ」

「怒ってたって、だから、雅をでしょ……」

「悪い、怒ってたんじゃなくて、多分あれは心配してたんだと思う」


 桐椰くんは困ったように額を押さえた。松隆くんの様子を思い出して、どう表現すべきか頭を抱えているようだ。


「水族館もさ、お前、総の前で約束とりつけたんだろ」

「……うん」

「妙にわざとらしかったし、坂守はあんま菊池みたいなヤツいねーし、怪しいなって。見張りというかなんというか、今日水族館に行くぞって言い出したのもアイツだし。思い過ごしかなって話しながらだったけど、アイツはずっとお前のこと心配してた」


 月影くんが言っていたのは、この話だったのか。


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