第二幕、御三家の嘲笑
「まぁ……菊池がどういうつもりだったのか、俺には分からねーよ。総の前でお前を誘ったのは、もしかしたら総が気付くって思ったからだったのかもしれない。でも菊池は、水族館から出た後、俺らを撒いた。だから俺達の中では、アイツが俺達を嵌めたいんじゃないかって結論にはなってた……」


 気が付かなかった。ずっと手を引かれて、他愛ない話をされていた。あれは私の注意を逸らしながら御三家を撒いていたのだろうか。雅はずっと、三人がいることを分かっていたのだろうか。


「お蔭で……遅くなった。ごめん」

「……大丈夫、遅くなんかなかったよ」


 もしかして、雅にとっての誤算は、私が御三家を呼ばなかったことだったのだろうか。雅の中では、工場に連れて行かれた私はすぐに御三家に助けを求め、すぐ近くにいた御三家が数分と経たずにやってきて、あの人達を叩きのめす。その算段を雅なりに整えていたのかもしれない。


「……心配したよ、俺達は、本当に」


 ちらと、桐椰くんの目が私の腕を見た。雅を庇って踏まれた怪我がある。


「あの総が、感情剥き出しで怒ったんだ。怒り狂ったってああいうのを言うんだよ。菊池に酷いこと言ったとは思うけど、アイツがお前を心配してたことの裏返しだったんだ……」

「……うん」

「だから、総のこと……悪く思わないでやってくれよ。アイツの中で、大事なヤツが決まってるんだ。お前がその中にいるからあんな言い方になっただけなんだ」

「……うん」


 桐椰くんの言う通りだ。松隆くんはきっとそういう人だ。桐椰くんが誰にでも優しくできるのとは違って、松隆くんは選んで優しくする人だ。優しくする相手は松隆くんの中で決まっていて、それ以外の人はどうでもいいくらいの人なのかもしれない。それを冷たいと、私には言えない。


「……分かってる。分かってた、けど……私の中で、雅が大事な人だから、怒っちゃった」


 だって、私も同じだ。誰にでも優しくすることはできない。


「……松隆くんに謝らなきゃ」

「いや、アイツの言い方も悪いとは思うし……でもアイツ頑固だしな。駿哉がとりなしてくれてるとは思うけど、どうだかな……アイツから折れたことねぇし」


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