第二幕、御三家の嘲笑
 眉間に皺を寄せ、ポケットに手を突っ込みながら、桐椰くんはぶつぶつと呟いた。どうすっかな、と言っているので本当に松隆くんは頑固なようだ。分からないでもない。遂に顎に手を当ててまで考え始めた桐椰くんがおかしくてちょっと笑ってしまった。


「リーダー、厳しいもんなぁ。もう一回下僕になりますって言ったら許してくれるかなぁ」

「アイツ単体の下僕になったらマジでこき使われるぞ、やめとけ」

「そうだよ、松隆くん、クラスマッチの賭けのせいで私の人権奪おうとしてるんだよ……どうにかして忘れさせなきゃ……」

「そりゃお前、足掻くだけ無駄だっての。アイツ出し抜くとか無理だから」

「リーダーは抜け目ないですもんねぇ」


 いつもの調子が戻ってきた。少しだけ足取りも軽くなった。桐椰くんも硬かった表情が少しだけ柔らかくなった。良かった、いつも通りだ。

 その調子で暫く歩いて、家の前まで来てから頭を下げる。


「ではでは桐椰くん、送ってくれてありがとうございました」


 とても長い一日だった。気を付けして馬鹿丁寧に頭を下げるけれど、桐椰くんは無反応だ。顔を上げた先の桐椰くんは家を見ている。


「桐椰くーん?」

「……家の明かり、ついてねぇけど……」


 何でだ? そう言いたげに訝しんでいる。私も家に視線を移しながら頷いた。


「あ、今日は家に誰もいないの。みんなそれぞれ用事があって」

「……一人で大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


 寧ろ一人でいれることが有り難い。首を縦に振るけれど桐椰くんは釈然としない様子だ。私の強がりだとか、()せ我慢だとか、きっとそんなことを思っている。桐椰くんは優しいなぁ、口腔でもう一度呟いて、茶化して誤魔化そうと背伸びして手を伸ばす。それでも、その手首が掴まれたせいで額を弾くことは叶わなかった。


「ありゃりゃ」

「……本当に大丈夫か?」


 それどころか、その目は全く笑っていない。そのせいで心の奥底を見抜かれてしまった気がして、不意に喉が苦しくなる。心なしか目頭が熱くなる。


「……大丈夫だよ」

「……嫌味の一つも言えないお前の大丈夫なんて大丈夫なわけねぇだろ」


 言い訳は、きかないのだろう。それでもこの場でどうとも頼ることはできない。


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