第二幕、御三家の嘲笑
 それでも、月影くんが暴いたのはそれだけだ。目を閉じれば、月影くんが暴ききらなかった事実が頭の中を走馬灯のように駆け巡る。繰り返さなければならなかったけれど忘れたかった日常。それを忘れたことなんてなかったのに……、今日、少しだけ忘れてしまった。脳裏にちらつくその光景が弾け飛んだ気がした。

 ぱちりともう一度目を開ければ、頬の上を涙が走り抜けた。


「……どうしろっていうの」


 ――クラスマッチの日、松隆くんは私に訊ねた。

『結局桜坂は、遼に彼女ができても構わないの?』

 その言葉に驚きはしたけれど、その驚きは、私が月影くんから聞いた話を松隆くんが知っていると思ってしまったからだ。二人揃って私が狼狽えるのを見たいのかと思ったから、それだけだ。だから、ゆっくりだったけれど頷いた。BCCに出たからって何が変わるわけでもない。松隆くんは知ってるはずだよね、と付け加えまでした。

『私、未だ忘れられてないんだよ』

 本当に、馬鹿みたいだ。答えた後に気付いてしまったんだ、文化祭のときと答えが違ってしまっていたことを。あの時は何の留保もない現在形だったのに、今度は〝未だ〟とついていた。そんなの、今後変わる可能性を示唆する言葉に他ならないのに。


「……今のまま、隣にいたいんだよ」


 きっと、あの人に手が届かなくなってしまったから、他の誰かで心を埋めようとしてるだけだ。それだけだ。そんな都合のいい考えがあるだけだ。

 言い聞かせるどころか否定できない理由を胸に、膝を抱えた。
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