第二幕、御三家の嘲笑
「これは遼の差し金?」

「……さすが幼馴染」

「アイツが時間に遅れて連絡寄越さないわけないだろ。わざとらしいんだよ」


 連絡をくれても誤魔化せなかった気はする。どうせ桐椰くんのことだから早々時間に遅れたりしない。大体……、松隆くんより桐椰くんとのほうが気まずい。松隆くんはこうして何事もなかったかのように、「桜坂とは価値観が違うから仕方ないよね」で終わらせると分かっていた。寧ろ私にとっては桐椰くんが何事もなかったかのように私に連絡をしてきたほうが不思議だ。


「……仲直りしろって言われた」

「別に喧嘩したつもりはないんだけど。俺と桜坂は友達だけど桜坂の友達は俺の友達とは限らない、そして俺は俺の友達以外どうでもいいって話だ」


 ご尤もな理屈だ。そしてその理屈に私が納得することを分かっている。お蔭様で、安堵というかなんというか、そんな表情になってしまった。


「松隆くんと話すのは楽だな……大体のことは合理で通るもん」

「かもしれないね。ドライだとはよく言われるよ」

「友達には優しいのにね」

「そう思うのは勘違いだよ、きっと。……まぁ、謝る余地があるとしたら、自分の立場になって考えてみろってところかな」

「自分の立場?」

「俺が──例えば遼なんて死んでもいいって本気で言われたらブチ切れて相手を半殺しにするかもしれないなと思ってね。その点だけは謝っておくよ」


 肩を竦めて、「桜坂にとって菊池が大事な人間だっていうのは俺に否定できることじゃないからね」と補足された。とことん理に適った説明だ。お陰で本当に本気で死ねばいいと言われたことが分かって、寧ろ今の台詞は蛇足だったのではないかと思う。……でも、謝ってくれたのは事実だから、「怒鳴ってごめんね」と改めて小さな声で謝っておいた。別に、と小さな返事が来た。沈黙が落ちる。松隆くんは漸くスマホをポケットに滑り込ませ、腕を組んで眉間に皺を寄せる。


「しかし……、敵に塩を送られるとはこういうことを言うのかね」

「敵?」

「こっちの話。で、アイツは俺と桜坂が喧嘩をしてるわけでもないのに十分遅れて来ることになったわけだ」


 厳しい……。確かに結果的には桐椰くんは無駄に遅刻したことになるけれど。


「というか、俺に気を遣っただけってことは遼とは何もなかったわけだ」

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