第二幕、御三家の嘲笑
 白々しく、表情を変えることなく、つまりいつものにこやかな笑顔で毒を吐く。何もなかったのは桐椰くんが言いかけた何かを私が遮ったからだとしたら……、松隆くんは表情を変えるのだろうか。


「で、そう言われて顔色を変えないってことは、桜坂はもう勘付いたわけだ」

「勘付いた?」

「遼が桜坂を好きだって」


 …………。松隆くんの綺麗な顔面に拳をめり込ませたくなった。これからやって来る桐椰くんについてそんな盛大な暴露話を本人にするなんて。私が気付いてなかったら──というか月影くんに教えられていなかったら──なんて言って弁解するつもりだったんだ。


「……月影くんもだけどそういうの言わないでいてほしかった」

「いつ言われたのか知らないけど、どうせすぐ分かったことだろ。アイツが好きでもない女子を抱きしめるわけがない」

「松隆くんは好きでもない女子を必要とあらば抱きしめるということですか?」

「そんな話は今してないだろ」

「そーだね。でも私と桐椰くんの間で間違いなんて起こらないから安心してよ」


 松隆くんの探るような瞳が向けられた。本当に? そう目だけで念押しされた気がした。


「……私が桐椰くんを好きになるように思う?」

「さぁ、文化祭のときに桜坂が口を滑らせたこともあるし、なんとも。俺にとっては結局桜坂の好きな人って誰だったんだろうなって疑問が解決してないわけだし」

「え? だってこの間……」


 雅が、幕張匠が好きなんだって嘘を……、と眉を顰めたけれど、松隆くんは不敵に口角を吊り上げた。


「あのさ、桜坂。菊池の咄嗟の嘘はまぁ良かったと思うけど、残念ながらあれが通じるのは遼と駿哉にだけだ」


 ドクン、と心臓が恐怖で跳ねた。松隆くんだけを騙すことができない理由があるとしたら、私と松隆くんが二人だけで話した何かに原因があるということだ。でも何だというのだろう。私が松隆くんにだけ話してしまったこと……。


「桜坂は言ったね。好きな人はいつだって普通に会える人だって。好きな人が幕張匠だというなら、死んだ人間にはどうやって会うんだ?」


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