第二幕、御三家の嘲笑

(一)雨は時を流す

 文化祭が終わって、一週間が経った。


「松隆くーん! おっはよー!」

「あっ、遼くーん、カップケーキ作ったんだけどどう?」

「月影せんぱあい、こっち向いてくださ――い!」


 きゃあきゃあと悲鳴のような歓声で埋め尽くされる廊下の中心を、三人はモーゼのように歩いてくる。ギャラリーに顔も視線も向けず、一人は片手に旅行雑誌みたいなものを持って、一人はそれを覗き込んで、一人はそれにすら興味なさそうにスマホを見て。


「三日? 長い。勉強に支障を来すから却下だ」

「三日くらい勉強しなくてもお前なら大丈夫だよ。いんじゃね、海行って釣りして祭すりゃ三日だ」

「日焼けしたくないから海はなしだなあ。早起き面倒だから釣りもダメ、人混み無理だから祭も却下」

「避暑に誘っておきながら何だその却下の連続は。家で寝てたらどうだ」

「家にいると父さんが面倒だからな。兄さんも帰ってくるし」

「ああ、俺も兄貴帰って来るだろーな。行かないことになっても鍵くれ、暫く住むから」

「食事はどうする」

「お手伝いさん一人来てもらえばなんとかなるだろ」

「飯くらい自分で作れよ」


 全ての声を無視して (おそらく)夏休みの計画を立てていた三人が、私に気付いて足を止めた。じろじろと私を見ながら真っ先に口を開いたのは月影くんだ。


「BCCでは見違えたと思ったが……やはり十人並みの素は変わらないな」

「失礼だなツッキーは! なんでそれでモテるの? 絶対嘘だよね!」

「あとはそのダサいニックネームをやめろ。名前で呼ばれたほうがまだマシだ」

「駿哉くんは名前で呼ばれるほうが好きなんですか?」

「呼ばないのが一番良いからその口を縫い合わせてからもう一度来い」


 罵り合った後の私と月影くんとの間にはバチバチと火花が散る。理由は待ち構える期末試験だ。月影くんとしては一科目でも私に負けるわけにはいかないらしい。文化祭が終わってから何かと視線が痛いので私も反抗的な目を向けざるを得ない。ただ、松隆くんと桐椰くんにとってはどうでもいいことなので、松隆くんの手にある雑誌を見ながら「あ、花火できんじゃん」「片づけが面倒」なんて話している。松隆くんはさっきから夏の風物詩を否定してばかりだ。


「ねぇ、さっきから見てるの何?」

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