第二幕、御三家の嘲笑
 ──そうだ。文化祭の日、松隆くんに訊ねられて答えてしまったんだ。実は好きな人が桐椰くんでしたなんてオチではないと証明するために話してしまった本当。そんなことはすっかり忘れてしまっていたし、雅が知り得るはずもない。


「……雅が言ったの? 幕張はもう死んだって」

「……正確にはもういないってね。それをどう捉えるべきかって問題は残ってるよ」


 松隆くんは時間を確認する。十三時になったけれど未だ桐椰くんはいない。ということは十三時一〇分到着予定ということだ。未だ、尋問の時間が残されている。


「菊池がどこまで考えるヤツなのかって話ではあるけどね。〝いない〟がただの生死を指すのか、はたまた転校したからこの場にいないというだけなのか、記憶喪失なりなんなりで幕張匠がそれまでの彼ではなくなったのか……解釈の余地はあるというわけ」


 松隆くんは秘密を暴こうとするように笑っている。私の反応を確かめているようだ。ただ、散々嘘を吐いてきた今、ポーカーフェイスを保つことは容易い。実際、、表情を崩さない私に、「……襤褸(ぼろ)は出さない、か」と少しだけ残念そうな声が降って来た。松隆くん相手となると一度納得の体を示されただけじゃ油断できない。


「結局、桜坂が好きなのは幕張匠ってわけ」

「疑うならそれでいいけど」

「ま、桜坂が幕張の家に出入りしてたって話は本当だって言ってたし……菊池の言葉はただの比喩だったってことだ」

「そのわりには未だ釈然としないって感じだね」

「いかんせん幕張の消息……というかそもそも素性が不明だからね、確かめようがない。高祢中学にいたヤツに訊いても、幕張は高祢中学にいなかったって言うし」


 幕張匠という偽名の目的が隠れ蓑にあったわけではないせいで、実は私の秘密は穴だらけだ。一生懸命蓋をしたその穴が、下手に返事をすると墓穴になりそうなので黙った。


「俺だって実際に会ったことなけりゃ存在も信じなかった気がするよ」

「ふぅん」

「……本当、上手く隠してくれるよね」


 ふん、と松隆くんは自嘲気味の笑みを浮かべる。


「いつになったら俺に話してくれるのかな」

「どうしてそんなに知りたいの? 好奇心?」

「……さぁ?」

「松隆くんこそ本心を隠すのが上手いよ」


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