第二幕、御三家の嘲笑
 桐椰くんがいないこの場は、お互いの腹の探り合いだ。下手すれば、松隆くんならその気になれば私と幕張匠が同一人物だなんてすぐに分かる。月影くんは小学校のバスケチームで一緒だった友達のうち高祢中学に進学した人くらいしか伝手がなくて、月影くんの友達ともなれば不良界隈に縁のない人ばかりで、そう簡単にいい情報を得ることはできないだろう。桐椰くんは顔が利くといっても敵の方が多いかもしれないし、上手く情報を引き出す話術とかカリスマ性とか、そんなものはきっと持ち合わせてない。そんな危険なものは松隆くんにこそ圧倒的に備わっているといっていい。となれば、松隆くんは、幕張匠が高祢中学にいた事実なんてなくて、偽名らしきその苗字が同じ私が妹だとか彼女だとか噂されて、でもあまりにも二人が結び付かないから何も関係ないんだろう、家に出入りしていたというのも出所はよく分からない話だし、ということでいつの間にか噂は立ち消えた、なんて一連の流れを知っていてもおかしくない……。

 そこまで考えて、はたと気が付く。


「……ねぇ、松隆くん……、松隆くんは、私らしき女子が幕張匠の家に出入りしてるって、聞いたんだよね……?」

「ん? あぁ、そうだね。桜坂が否定しなかったから俺は桜坂が幕張の家に出入りしてたんだと思ったけど」


 それがどうかした? 純粋に不思議そうに眉を顰める松隆くんの声が頭に入ってこなかった。だって、そんなのおかしい。もし、松隆くんがその噂を聞いたんだとしたら、松隆くんが私と幕張匠を結びつけていないことがおかしいんだ。中学のときの私の苗字は幕張だったのに、その噂の発信源が「桜坂亜季らしき女子が幕張匠の家に出入りしていた」なんて言えるはずがない。

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