第二幕、御三家の嘲笑
「……まあね。去年までの生徒会がどうだったか、詳しいことは知らないけど。少なくとも希望役員だのなんだの、そういう制度ができたのは鹿島が生徒会長になった直後からだ」


 そもそも、鹿島くんは御三家に透冶くんの話をする舞台を──BCCというふざけたものであったとはいえ──わざわざ用意した。敵だ敵だと思っていた生徒会のトップなのに、敵に塩を送るどころじゃない。それでもって、透冶くんの死の原因は、少なくとも今の生徒会役員にはなかった。そして鹿島くんは私が幕張匠だと知っていて、その私を御三家の仲間にしたくて──なんて、繋がりの分からない数々の謎に頭がこんがらがる。複雑に絡み合った糸の先にあるものは一体何だというんだろう。


「……鹿島くん、何考えてるんだろう」


 透冶くんが居た頃の生徒会──旧生徒会を変えた鹿島くんは、今何を思っているのだろう。


「鹿島のこと気になるの?」

「気になるよ……。だって生徒会長だよ? 狙いっていうのかな……金持ち生徒会の中で一人だけまともだから逆に変っていうか……」

「まとも、ね……」

「まともじゃない?」


 その評価を反芻して疑問を呈する松隆くんに私のほうが疑問を呈してしまう。どこからどう見たって鹿島くんは普通だし……。仮に松隆くんが私と違う印象を抱くとしたら、それは松隆くんが個人的に鹿島くんとの間に何かあった可能性が高い。でも本人は否定してるし……。


「……まぁ、変なヤツだとは思うけど」

「変……かなぁ? すっごく普通に見えるけど」

「桜坂のいう〝普通〟がどう定義づけられるのかは知らないけれど、あの腐った高校の生徒会長なのに〝普通〟に見えるってことはそれだけで〝変〟と同義だよ」


 考えもしなかったその事実に、思わず息を呑んだ。松隆くんの目に宿った怜悧さで自分の浅はかさを知る。


「俺が腹黒いと言われるように、駿哉が合理主義者であるように。お人好しの塊みたいな遼でさえ、ごく当然に他人を嫌いになるし、暴力を厭わない相手だっている。一点の穢れもなく生きることを純粋とは言わないんだよ。歪んでない人間なんてそれこそが歪んでるも同義だ」

「……鹿島くんは、悪意なんて感じさせない」

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