第二幕、御三家の嘲笑
 漸く私の頬から手を離した桐椰くんが松隆くんの手元を覗き込む。その手はスマホを持って「ハンズでいいだろ。万が一なかったら予定変更しよう」なんて、わざわざ買いに来たにしては随分と雑に決めている。男の子同士の誕生日なんてそんなものかな。


「ん、了解。北口だっけ?」

「あぁ」

「結局何買うの?」

「ペンケース。アイツ小学生のときから同じの使ってるから」

「ね。いい加減あのスポーツメーカーのロゴがでかでかと書いてあるダサイのを買い替えろって言ってるのに、まだ使えるの一点張りだからな」


 月影くんの持ってる筆箱なんて知らないけれど、歩き出した二人の会話でなんとなく頭の中にイメージが湧いてしまった。絶対アレだ。小学生男子の大半が六年間に一度は持つアレだ。高校生になってもまだ使い続ける月影くん、使えればいいという月影くんらしい心が伺える。


「高い勝負パンツ買うかー、って話もしたんだけどね。アイツ彼女いないし、作る気もないし」

「そういえば、なんで月影くんって女嫌いなの?」


 どうせだから一個くらいネタ系買っとくか、なんて二人は話し始めたけれど、ずっと気になっていたことが関連したのでつい口にしてしまった。周知の事実であるはずなのに二人は顔を見合わせるものだから首を傾げてしまう。


「嫌いだよね?」

「……まぁ嫌いなのかな?」

「嫌いなんじゃね?」


 それなのに、返ってくる言葉は曖昧だ。目的地はほとんど駅に直結しているのに、ほんの数分だけ日差しの下に出なければならず、眩しさもあって顔をしかめる。


「嫌いなんじゃね?って……」

「まぁ自称女嫌いだよなぁ、アイツ」

「でも桜坂と普通に喋るしね」

「クラスの女子と喋んの? 昔から喋るほうじゃねーけど」

「俺だって今はクラス別だよ。普通に、必要最小限って感じ」

「……自称なの?」


 二人が自信なさげなので、数テンポ遅れて反応してしまう。松隆くんは「うーん、」と眉を顰めて首も捻った。


「まぁ、嫌いなのかなぁって感じではあるんだけどね……。必要最小限しか喋らないとはいえ、アイツ、そもそも愛想良いほうじゃないし、人見知りだから。そこのとこは男女関係ないと思うし」

「……初めて月影くん紹介したとき、女嫌いなんだって言ってなかったっけ?」


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