第二幕、御三家の嘲笑
 女の子が嫌いすぎて弄んで捨てると聞いた気が……。いやでも、月影くんは透冶くんの事件があって女遊びに手を出したとも聞いた気が……。いかんせん最初の御三家との関係が主従だったせいで、どこかの情報が嘘だった可能性は拭えない。実際、松隆くんは「あぁ、それはアイツそう言われてるし自称してるからそういうことにしただけ」とあっさり認めた。


「初対面の桜坂に、女嫌いで通ってるけど実は自称なんだ、なんて話する必要はないだろ?」

「……適切なコミュニケーションだと思います」

「だからまぁ……、今になって正直なことをいえば、なんで女嫌いなんて自称し始めたのか知らないんだよね」


 へぇ……。なんだか意外だ。御三家の三人は本当に小さい頃から一緒にいると聞いているから、なんでも知ってるものだと思ってた。それでも結局知らないことはあるんだ。特に女嫌いなんて何か理由があっても良さそうなことなのに。


「幼馴染って言ってもお互いなんでもかんでも知ってるわけでもないし……。駿哉がそう言うならそういうことでいいか、って感じ」

「えー、じゃあ松隆くんは桐椰くんが泣きだしちゃったエピソードとか知らないの?」

「遠足で足骨折して泣き止まないから彼方兄さんが迎えにきた話のこと?」

「おいやめろ!」


 ほう、なるほど……。「余計なこと言うんじゃねぇよ」と桐椰くんは松隆くんの胸倉を横から器用に片手で掴んで揺さぶっている。松隆くんはぺろっと悪戯っぽく舌を出す。


「そういう話なら腐るほど知ってるけどさ」

「忘れろ。今すぐ忘れろ。全部忘れろ」

「そうやって目に見えることでもなければ、知らないなんて当たり前だし、実際知らないことなんて沢山あると思うよ。遼の得意料理は顔に似合わずふわとろオムライスだとか、中学の家庭科の授業で保護者顔負けの小物入れ作れちゃったとか、知ってるだけ気持ち悪いだけだろ」

「だから! なんで俺が集中砲火なんだよ! つかんなこと覚えてるの気持ち悪いって自分でも言ってんじゃねぇか!」

「だって中学二年のリレーのアンカーでお前が俺に負けて三日間口利かなかった話なんてしてほしくないだろ」

「してんだよ! お前コイツに似てきたぞ。余計な話すんじゃねぇよ」

「桐椰くん可愛いとこあったんじゃん! なんで今はそんなすれちゃったの!」

「だからうるせぇんだよお前も」


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