第二幕、御三家の嘲笑
「ねぇ、松隆くんってああいうの駄目なの? 彼女ネタとかでいじっちゃだめなの?」

「彼女ネタつーか今のはお前が明らかに一二〇パーセントの力で煽り過ぎだろ。知らねぇぞいつ奴隷に逆戻りしても」

「やだよ! だって松隆くん絶対容赦ないもん! 桐椰くんと違ってお人好しさの欠片もないもん!」

「お前はもう少し褒め言葉を選べよ」

「もちろん桐椰くんを煽れるように選んでるよ?」


 桐椰くんは鈍いのかな?と首を傾げると頭を掴まれて謝罪させられた。今日も桐椰くんはいつも通りで何よりだ。

 目当ての階に到着すると、二人は迷うことなくフロア案内を見てペンケースの場所を確認して歩き出す。目当ての物以外には興味がないと言わんばかりに途中で立ち止まることもなく、すいすいと休日の人混みを通りぬけるだけだ。


「二人共、彼女の買い物とか絶対付き合わなさそう」

「あぁ、遼はね。蝶乃のせいで女の買い物は長くて面倒って知ってるし」

「だからその名前を出すのをいい加減にやめろ。大体お前だってそうだろ」

「お生憎、彼女がいたことないからその点は実証されてないね」

「ちっ」


 そういえばそうだったな、と桐椰くんはさも当然のように返事をするけれど、ちょっと待って。


「松隆くん、彼女いたことないの!?」

「ないよ」

「絶対一気に五、六人と付き合ってると思った」

「……桜坂は俺のことをなんだと思ってんの?」


 少しだけ心外そうな目が向けられる。だって松隆くんからすれば女なんて選びたい放題だ。顔よし、頭よし、お家よしで、欠点と言えば腹黒さくらいしかないけれど、それさえ隠すのが上手いときた。寄って来る女子は絶えないわけだし、彼女の一人や二人、いないほうがおかしい。


「松隆くんの頭脳をもってすれば女の子を(たぶら)かすのなんて朝飯前だろうし」

「だから、俺のことなんだと思ってんの?」

「桐椰くんが天然女タラシなら松隆くんは計算女タラシ……」

「おい、何で俺を巻き込んだ」

「だってあの彼方の弟だよー? タラシじゃないわけないじゃん」


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