第二幕、御三家の嘲笑
 てっきり私の存在を忘れて話を進めていると思ったら、桐椰くんはこんなときだけ私を示した。喋りながらもしっかり本来の目的を遂げようとしている松隆くんはシンプルに真っ黒いペンケースを手に取る。


「桜坂はどんなのがいいと思う?」

「……私、月影くんの趣味は知らないけど、持ち物はモノトーンのものが多いし、そんなんでいいんじゃないのかな」

「だよなぁ」

「っていうか、二人とも、ナンパ事情にすっごい詳しいんだね」


 黒色でちょっと形の違うペンケースを手に取ろうとしていた松隆くんの手が硬直し、桐椰くんの横顔が凍りついた。じっと見ているけれど二人は無言だ。


「……ほら、よく聞く話だろ」

「わぁ、珍しく松隆くんが棒読みだぁ。因みに初耳だよ、教えてくれてありがとう」

「……一般論だから」

「お前もう諦めろよ」

「なんで自分だけ関係ないみたいに言ってんの? お前だっていま同じ話してたからな?」

「だって俺はナンパしたことねーもん」

「いやあれは一回にカウントするだろ」

「罰ゲームでお前がさせたやつだろ! 相手にめちゃくちゃ笑われて恥ずかしかったんだぞこちとら!」

「じゃあ松隆くんはナンパ常習犯なんですね」

「…………」


 桐椰くんが「諦めろよ」と再び一言声を掛けた。松隆くんの横顔が珍しく焦っている。何をいえばこの場を逃げられるか、桐椰くんのエピソードに矛先を向けたところまではよかったが残念ながらそれは失敗してしまった、どうすればいいか、そんなことを考えている横顔だ。


「別に松隆くんがナンパ常習犯でも幻滅しないよ? めっちゃくちゃに腹黒いこと知ってるし」

「……まぁそうだけどね」

「で、どーすんの、駿哉の誕プレ」


 松隆くんが項垂れる寸前だったので桐椰くんが助け舟を出した。ひょいと松隆くんの手からペンケースを取り上げて私の前で振る。


「ただの黒でいいの?」

「アイツ、色のついたもの持たねーから」

「御三家ってお互いのこと知り過ぎて気持ち悪いって言われることない?」

「俺達だって好きでこうなわけじゃねーよ余計なお世話だ」

「確かに、私も既に桐椰くんが制服代わりに着てるパーカーのローテ覚えちゃったし、そんなもんだよね」

「秋になったら変わるから大丈夫だよ!」


 そこじゃないよ桐椰くん? 何言ってるのかな?

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