第二幕、御三家の嘲笑
「……で、アイツはボールペンとシャーペン二本ずつくらいしか持たないし、容量も小さくていいだろ」


 まだ焦りを拭えてない表情の松隆くんが口を出した。絵が一番下手なのは自分だと告白したときの顔と同じだ。恥ずかしいときの松隆くんは気持ち俯いて目より下を隠そうとする癖があるらしい。なるほど。


「月影くん勉強家なのにね。色ペンとか持たないんだ」

「アイツ、基本的にノートも書き捨てなんだよ。あんまりノートとるとかいう概念ない」

「遼のノートは綺麗だよなあ」

「お前はノートが飛び飛びすぎなんだよ。気まぐれに授業聞こうとするのやめろ」

「ノート点つけるヤツがいるからだよ。テストの点数とれればそれでいいだろ」


 まさに三者三様。結局、月影くんのプレゼントは真っ黒いレザーファスナーペンケースになった。本当にペン三本くらいしか入らなさそうだ。因みにボールペンは一本、常に胸ポケットに差しているので筆箱には入れないそうだ。「プレゼント用の包装とかアイツならなくていいんじゃない?」と松隆くんが面倒臭がったけど、「アイツ意外とこういうの喜ぶじゃん」と桐椰くんが進言したのでプレゼント包装も任せることになる。因みに月影くんはオレンジ色が好きなそうだ。何でそんなことが分かったのかというとリボンの色だ。完全に女の子のプレゼントになった二人が渋面で店員さんに対応していた。番号札を貰って帰ってきた二人のうち、松隆くんが邪魔くさそうにそのプラスチックの札を持て余していた。


「そのうち呼ばれるだろ」

「人多いから時間かかりそうだな」

「だから要らないだろって言ったのに」

「どうせ暇だろ」

「だから、何が哀しくて男のプレゼント買うために休日出勤しなきゃいけないんだって話してるんだよ」

「彼女いたことないくせに」

「はいはい、蝶乃と付き合って経験豊富な人は言うことが違いますね」

「だからそれは関係ねぇだろ!」

「トイレ行ってくるからこれ持ってて」


 身を翻した松隆くんから、ひょいと番号札が投げられる。桐椰くんは左手でそれを取った。桐椰くんって右利きじゃないっけ、と首を傾げて見上げていると、桐椰くんは何かを言おうと口を開きかけ……、ポケットからスマホを取り出した。右手でだ。そっか、桐椰くん、野球もやってたから投げられたものは左手でとる癖があるのかな。


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