第二幕、御三家の嘲笑
 そして──今になって気が付く──リーダーの男が口にした、あの台詞。〝よく出来てるわ〟なんて、自分が考えた計画じゃなくて他人から授かった計画だからこそ口にする評価だ。実際、自画自賛かのような口ぶりではなかった。一般論ではあるけれど、他人の考えた計画を自分のものにこそすれ、自分の考えた計画を他人のもののように語る人なんていない。それをあの男に引き直して考えたところで──見た限りではあるけれど──例外だとは思えない。寧ろ逆で、他人の手柄も俺のものと言わんばかりの性格だといわれても納得できるほどだ。

 つまり、あの出来事は、それを画策した別の人物がいて、その人物はあの場にはいなかった。どっと、鹿島くんの触れている指先から、全身に恐怖が流れ込む。蝶乃さんに出くわしてしまうほうがよっぽど怖い、というつい数分前の感想を撤回する。


「まさか……、」

「因みに、俺ではないよ」


 じゃあ、鹿島くんは誰が手を引いたか知ってるの?

「もう少し頭が回ると思ってたけど、意外と鈍いのかな? しっかり思い出して考えなよ」


 脈を図るように首筋に触れていた指先が鎖骨に降りて、印でもつけるようにぐっと沈み込んだ。その場所の持つ意味を分かった体が硬直する。同時にその意味を知ってそうした鹿島くんに対する恐怖が増幅していく。


「なんで……? 見てたの……?」

「なぁ桜坂、君は、幕張匠が憎悪の対象になることを仕方ないと思ってるんだよな? それは憎悪の対象が幕張匠だけであることと、果たして同義か?」


 印のついていたそこを指先が擦る。どくどくと心臓が鼓動する。カラカラに喉が渇く。


「裏で糸を引いたのは……、幕張匠を恨んでる人じゃなくて、桜坂亜季を恨んでる人だった、ってこと……?」

「そうじゃなきゃあんな言葉が出てくるわけないだろ?」

「あんな、言葉……」


 もう、店内の人々の喧騒なんて聞こえない。私と鹿島くんのいる場所だけ切り取られたように、何も聞こえない。見えているのだって目の前の鹿島くんの顔だけ。なんなら、頭の中でぐるぐる回っているのは、あの日の光景。指先から凍りついていくようなあの日の光景を、それでも脳内で反芻させる。あの日、あの場にいた男達が口にしていた言葉は……。

『御三家の姫って、それ?』

『コイツが御三家の姫とナカヨシって言うから』

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