第二幕、御三家の嘲笑
 ──それは、本当に御三家だけの思惑だったのだろうか?

「金持ちは家と人が善いなんて幻想さ。それを利用してこの間みたいな奴等を上手く使う人間なんて当然にいる。せいぜい気を付けなよ」


 言いながら、ぐっと、鹿島くんの指は唇をより侵食した。ぞく、と、また体が震える。


「……忠告するため、に、話しかけたわけじゃないんでしょ……」

「勿論。話しながら、君が答えに辿り着くのを待っていたんだけど、俺は君を買い被ってたみたいだ」


 親指以外の四本の指が、愛撫するように首に触れる。


「君は、どうしてこの間みたいなことが起こったと思ってる?」

「……だから、御三家側についてる私が気にくわなかったか……多分、御三家と仲良いくせに雅と付き合ってる疑惑が浮上したから、そこが気にくわなかった誰かの仕業……」


 そんな状態で、頭が回るわけがない。鹿島くんの瞳は爛々と輝いていた。


「それも一つの正解だけど、そうだね、訊き方を変えようか。菊池が君を餌にしたのはなぜだと思う?」


 なぜ……? それは、月影くんが答えに辿り着いた一つの理由でもある。御三家を誘き寄せる餌になることが、それだけで終わるはずのない十分に危険な選択だとは雅も分かっていた。それでも、幕張匠を差し出せという要求に首肯できなかったのは、それが何より危険だったからだ。……その推理は、間違っていたというのだろうか。


「君は、あの菊池雅が、君を差し出すことに頷くと思うのかい?」


 でも、だって、雅はそうするしかなかった。


「幕張匠を連れてこい、それができないならお前の女を使って御三家を呼び出せ……そんな要求に応じるほど、菊池が馬鹿だと、君は思ってるのか?」

「……なに、言ってるの」

「本当、君は、いい(いぬ)を育てたよね」


 その手が、絞めようとするように、私の首を優しく掴んだ。


「幕張匠の居場所──正体について、頑として口を割らず。桜坂亜季を餌にしろという要求を呑まず。桜坂亜季の身を危険に晒すくらいならこのまま殴られ続けて死んでやる。下僕の鏡だね?」

「え──……」


 どういう、意味。言われていることの意味が分からずに知らず息を止めてしまった私を見てか、ふふ、と鹿島くんの口の端から笑みが零れる。まるでその現場を見ていたかのように、可笑しそうに。


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