第二幕、御三家の嘲笑
 不意に、台詞が中断されると共にその手が引き剥がされた。はっと目を開けると、鹿島くんの腕が別の手に掴まれていた。赤くなるほどその腕は握りしめられていて、鹿島くんは手の主に視線を移す。


「桐椰か……。お前のほうが先だったとは意外だよ」

「何の話だよ。お前、コイツに何してる」


 いつもよりワントーン低い声。そんな桐椰くんの態度とは裏腹に、鹿島くんは穏やかに微笑んで返す。


「何、って。穏便に話をしてただけだよ。御三家側の女子の事情は生徒会長としては気になるところだ」

「そのためにコイツに触る必要があったか?」

「そんな目くじらを立てることじゃないだろう? お前の彼女じゃないんだから」

「そうじゃなくても、どう見たって怖がってんだろ」

「あぁ、ごめんね桜坂?」


 するりと、鹿島くんの指は唇を撫でていった。ぞく、と背筋が震えて、つられて体が震えた。思わず顔を背けてしまったせいで鹿島くんの表情は見えない。桐椰くんは私と鹿島くんが並んで立っている様子を外から隠すように立っていて、鹿島くんから顔を背ければ自然と桐椰くんの表情も分からなかった。


「……コイツに何かしたのか?」

「なにも? 生徒会長だからってそう嫌がらないでくれって話してただけなんだけどね」


 その説明では釈然としない様子は顔を見なくても伝わってきた。でも御三家と生徒会という対立以外に見当がつくものもないせいで黙っているんだろう。


「……総も探してた。帰るぞ」

「……うん」


 でも帰り道で何か聞かれるかもしれないな……。その言い訳を考えておかなきゃ、と鹿島くんから逃げるように背を向けて、歩き出した桐椰くんの後に続こうとする。


「あぁ、そうだ、桜坂」


 それなのに、腕が強く掴まれた。そのまま強く引っ張られ、何事だと桐椰くんが振り返り、私は反射的に振り向いてしまって──唇が、重なった。


「っ」


 重なった時間は、ほんの二秒かそこらだろう。一瞬で離れたにしては生々しい余韻が唇に残っていて、最早脊髄反射的に唇を拭おうとする。それなのに、拭おうとした手も掴まれた。鹿島くんは表情こそ穏やかなのに、目は欠片も笑っていなかった。


「はっ、」

「嫌がらないでって言ったろ?」


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