第二幕、御三家の嘲笑
「遼が桜坂の彼氏でもなんでもないってところから」
「……意外と後半だった」
「お生憎、俺は桜坂を探しに行かなくてね。ミイラ取りがミイラになってから動き出したから」
はぐれたんなら連絡が来るだろうと言わんばかりの松隆くんの口ぶりが松隆くんらしくて笑った。本当に桐椰くんとは対照的なんだから。……どうせ、桐椰くんは心配して店内を彷徨ってたんだろうと思うと、余計にさっきの言葉を後悔する。
「あんなことを言ってたってことは、遼に何か言われたの?」
「……言われたには言われたけど、多分大したことじゃない」
「それを決めるのは桜坂だろ。俺にとってどうでもいいことでも桜坂にとってどうでもよくないことなんてごまんとある」
……その言葉は、きっと松隆くんにとっては優しさでもなんでもない。ただの彼の持論だ。それがただ、今の私にとって優しい言葉なだけだ。松隆くんの言葉はきっといつだってそうだ。優しくする気なんて微塵もないのに、優しい言葉をかけてくれることがある。それは私と似てるところがあるから生じる結果に過ぎないけれど。
「それにしても、俺と仲直りしろって言ったヤツと数時間後には喧嘩するとはね」
「……したくてしたわけじゃないもん」
「そりゃそうだろうけど、旅行までに仲直りしときなよ。俺は遼ほど優しくないから、間取り持つなんてしないよ」
「……すいません」
「で、結局何で喧嘩になったの」
「……価値観の相違」
「合わないだろうなぁ、桜坂と遼は」
「はっきり言うね」
「俺と遼が価値観合わないんだ。俺と近い桜坂が遼と合うわけないだろ」
「……松隆くんと桐椰くん、仲良いのに」
「価値観が合わないと仲悪いわけじゃないし、価値観が合えば仲が良いわけでもない。そんなの道理だろ」
その道理を道理と受け容れられない人がたくさんいて、だからそれを受け容れられる人は物わかりが良いとか冷めてるとか言われることを、どうせ松隆くんは分かっている。分かってて語るところが松隆くんらしい。黙々と歩き続け、外に出ると、桐椰くんの予告通り、暗くなった空から小雨が降り始めていた。
「……傘ある?」
「ありますよ、リーダー。持ってくれるなら入れて差し上げましょう」
「助かる」