第二幕、御三家の嘲笑
 絶対降らない空だったろ、と松隆くんは苛立たしげに私の折り畳み傘を受け取った。駅まではほんの少ししか歩かないとはいえ濡れるのを嫌がる松隆くんはちょっとだけ可愛かった。


「はいどーぞ、下僕ちゃん」

「今は傘持ち係の松隆くんが下僕みたいだね」

「下僕は慣れてないからうっかりお姫様を濡らしちゃうかもしれないけど悪いね」

「すいません冗談です持ってくださってありがとうございますリーダー」


 ひょいと傘を持って行きそうになるので慌てて一息に謝罪すれば傘の下に入れてもらえた。油断も隙もない。


「で、遼には元彼の話でも聞かれた?」

「食い下がりますね、リーダー」

「まぁ気にはなるしね。桜坂と遼が喧嘩になる理由なんて中々思いつかないし」

「……私のほうが酷いことは言ったとは思う」

「けど遼が桜坂の地雷を踏んだと」

「……なんでもお見通しですか、リーダー」

「桜坂が感情のコントロールを失うことなんて早々なさそうだからね」


 駅に着いて、松隆くんが傘を畳む。受け取ろうとすれば「どうせまた電車降りたら借りるから」と言って持ってくれた。どうやら帰りは送ってくれるらしい。まだ昼間なのに気遣いがありがたい。雨のせいで蒸し暑くなってきた外から逃れるように電車内に乗り込み、空いている座席に並んで座る。まだ誰もが帰宅するには早い時間だということを、そんなことを通して実感する。もし、桐椰くんと口論にならなかったら、まだ別のことをして時間を潰していただろうか。

 なんで喧嘩になっちゃったかな……、と窓に頭を預ける。鹿島くんとのキスを桐椰くんが咎めなければこんなことにはならなかったのに、と責任を(なす)り付けてしまう。咎められた……違う、怒ってたのかな。なんで怒られたんだろう。生徒会長は御三家の敵だから? だったらなんで桐椰くん個人として訊き直したのだろう。それは桐椰くんが私個人に抱く感情と関係があるのだろうか。松隆くんも特別喋りはしない電車の中で、そんなことを考えながら窓の外を眺める。風を切って走る電車の窓には水滴が斜めに貼りついていて、雨がまだまだ止まないことを教えてくれる。それは数駅過ぎても変わらなかったどころか、段々と強くなっていった。


「……ねぇ、松隆くん」

「なに?」


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