第二幕、御三家の嘲笑
 優しい声が珍しかったのと予想外だったのとで、目頭が熱くなった。じわ、と松隆くんのシャツが水分を吸い取った。


「本心を見せないで飄々としてるのも桜坂らしいけど、見せない理由が強がりだっていうなら、そういうのは俺達の前では必要ないんじゃない。俺達が全身全霊をかけて守ってやるって約束は、ちゃんと今でも生きてるんだよ」


 その言葉は、松隆くんの口から出るには有り得ないと思ってしまうほど。普段だったら裏に何かあると勘繰ったはずなのに、ぽんぽん、と断続的に頭を撫でる手に警戒心を緩められて、そんなことに頭は回らなかった。それどころか、さっきまでは押し返そうとしていた胸にしがみついた。はっ……、と、苦しく詰めていた息を吐き出す。


「……気持ち悪かった」

「だろーね」

「……怖かった」

「誰にされた?」

「……鹿島くん」

「……あの食えない生徒会長か」


 ぽんぽん、と、宥めるように頭がまた撫でられた。お陰で鹿島くんの名前を口走ってしまったことを後悔しなかった。


「後手だな。学校でも俺達から離れるなよ」

「……はい、リーダー」

「SOSはすぐに送ること」

「はい」

「そしたらすぐに行くから」

「はい」

「……全く、何のつもりだよ」


 俯いている私の唇を、松隆くんは器用に手の甲で拭った。松隆くんの左手は私の体を寄せたり頭を撫でたり口を拭ったりと大忙しだ。


「読めないヤツだよ、あの生徒会長は。よりによって……、付き合ってないどころの話じゃないのに」

「……松隆くんは女癖悪いらしいから流れに任せてやっちゃいそっ」

「今それ言う必要あった? 続き言ってもいいけど本当にするからね? 言っとくけど鹿島より上手い自信あるよ、俺は」


 私の頬をむんずと掴んだ松隆くんの顔を見上げれば額に青筋が浮かんでいた。涙を流すという間抜けな顔のままぶるぶると小刻みに首を横に振る。分かればいいんだよとばかりに顔は解放された。


「松隆くん……、怖い」

「よく言われるよ」

「……ありがとう」


 その手に誘われるがままに、頭を松隆くんの胸に預け直した。変わらず頭を撫でてくれる。


「……女子を下僕にしようと思った時に、こんなお荷物になるとは思ってなかったでしょ」

「別にお荷物じゃないけど。付け込まれるようなものにしたのは俺達だし……」


< 233 / 438 >

この作品をシェア

pagetop