第二幕、御三家の嘲笑
 でもまぁ、うーん、なんて困った声が頭上で唸るものだから、笑ってしまった。松隆くんが言い淀むなんて珍しい。


「こうなる前に、松隆くんなら真っ先に切り捨てるって思ってた」

「切り捨てるつもりだったよ、俺は」

「やだー、リーダー冷徹こわーい」

「くそみたいに甘いヤツがいるんだからバランスとれてるだろ」

「……はい」

「しかも結局捨ててないんだから冷徹呼ばわりされる(いわ)れはないね」

「確かに。意外と可愛くなって捨てられなくなりましたか」


 漸く落ち着いてきたので、茶化してこの場を切り上げようと軽口を叩いた。こんなことを言えば松隆くんはもう大丈夫だと察して罵るはずだ。

 それなのに、その手は頭から離れなかった。それどころか逆に力が込められた気がした。


「……松隆くん?」

「……そうだね」


 訝しんで顔を上げる前に、なぜか傘を持つ手まで腰に回る。


「……え、」

「可愛く思うようになるなんて、計算ミスにもほどがある」


 そのまま顔を上げられないように頭を押さえられて、益々強く──抱きしめられていた。挙句の果てにまるでペットのような扱いと鹿島くんの話とくれば、松隆くんが思いの外心配してくれてるのが分かる。吃驚した私のほうがなんてことないよとフォローに回るべき状態になってしまった。


「そんな心配しなくても、」

「心配じゃないよ」

「心配じゃないなら、」

「ただの欲だよ」


 ──そう、思ったのに。


「本当は、そんな顔さえされなきゃキスしてたよ」


 欲、って何。本当は、って何。そんな顔さえ、って何。


「なに言ってるの……、できるとしたいは違うって、」

「だから、俺は桜坂にキスしたいんだよ」


 どくん、と、心臓が跳ねる。どくん、どくん、どくん、と、破裂しそうなほどにうるさく激しく、松隆くんの胸の中で心臓が鼓動する。


「まつ、たかくん、こんな時に冗談、」

「こんな時に冗談言うほど性格悪くないし、こんなときに付け込まないほど性格良くないよ、俺は」

「っ──」


 耳元で囁かれ、体の芯が燃えるように熱くなった。それなのに、力強い腕が離れることを許してくれない。


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