第二幕、御三家の嘲笑
「思惑通りにならないために我慢しなきゃならないってんなら振り回されてやる。それでどうなろうが知ったことじゃない。他の男のキスなんか、上書きするくらいじゃ足りない。塗り潰して思い出せなくなるまでキスしたいんだよ」


 普段なら、それは苛立ちを隠しきれない台詞に過ぎなくて、例えばただのプライドのように聞こえたはずだった。


「俺の弱味になるなんて思ってなかった……、こんなことになるなら、もっと早く言えばよかった」


 それなのに、続いた呟きまで含めて、現実の声は酷く切なく。私が言葉を失い、夏の熱気と体温に包まれて、ザー、と降り続く雨音の中で。


「……好きだよ、桜坂」


 誰にも見えない傘の内側、秘め事のような囁きが零れ落ちた。
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