第二幕、御三家の嘲笑

 その日の放課後、学校の外。幕張匠がいつもいる場所で、雅は私に某ファーストフード店の紙袋を突き出した。そんなもの胡乱な目を向けざるを得ない。


「……なんだこれ」

「いやお前、自分の顔見てから言えよ。頬こけてんだぞ」

「あぁ、だからキモイって?」

「あの場で庇うわけにはいかねーじゃん。つか相棒に悪態つかないといけない俺の身にもなれよ」


 はぁー、と呆れた溜息がマスクを通して吐き出された。仕方なく紙袋を開ければビッグバーガーとフライドポテトのLサイズが二つ入っていた。


「……こんな食わない」

「だから食えって言ってんの! お前最近どんどん痩せてんじゃん!」

「んじゃポテト食うから」

「バーガーのほうを食え!」


 除菌シートで丁寧に手を拭いてから口の中にポテトを押し込んでいると、隣に座った雅に怒られる。鬱陶しいなぁ、と目で訴えかければ「鬱陶しいとか思うなよ!」と頬を膨らまされた。マスクで見えないので、正確にはマスクが若干動いただけだ。


「なぁ、お前、こっちの髪は地毛なんだよな?」

「……そうだけど」


 金色の髪を引っ張られて顔をしかめる。雅はもう一つあるポテトのケースを片手に取り、マスクの下から器用に三本を差し入れてもぐもぐと食べる。


「危なくね? あの調子だとあいつら髪引張りそうじゃん」


 金髪のほうが地毛で、学校での長い黒髪は(かつら)だ。幕張亜季と幕張匠が同一人物であるとバレないために、見た目の印象を変える必要があった。なおかつ、幕張匠であるときのほうが動きが激しくて鬘がとれてしまうおそれがあったから、静かに過ごせる学校のほうで鬘を被ることにしていた。そこそこ値段の張る鬘なので学校でもとれる心配はおそらくない。でも雅は心配らしい。


「大丈夫だろ。お前があの調子でブスだから近寄りたくないって言い続ければ、お前の隣にいたいだけの女子は近寄らないよ」

「近寄ってもないのに近寄って来て近寄るなって虐めるのが女子だろ」

「さすが侍らせてるヤツは分かってるな」

「好きで侍らせてんじゃねーよ。ああやって近くで迎合しとけば静かなヤツらなの」

「迎合って、雅そんな言葉知ってたのかよ」

「お前がこの間遣ったから覚えた」

「あぁ、そうだっけ」

「お前って頭良いよなー。学校の成績も良いんだろ?」

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