第二幕、御三家の嘲笑
「それはちゃんと食え! 最近のお前マジで痩せすぎてやばい!」

「俺の勝手じゃん」

「喧嘩、負けるぞ」


 そう言えば説得できると思っているのだろう。雅は言い聞かせるようにしっかりとゆっくりとその台詞を紡いだ。なんなら目まで妙な真剣さを帯びている。そう単純に説得できるわけないだろう、そうせせら笑いたかったけれど──残念ながら、その予想は当たりだ。


「……分かった、食べる」

「なに、食欲ないわけじゃないの?」

「最近食べるのが面倒だっただけ」

「ちゃんと食えよ。やだよ、喧嘩中にお前が空腹でぶっ倒れたとかなったら」

「気を付けるよ」


 促されるがままに噛みついたハンバーガーは、まだ温かかった。



 ピンポーン、とチャイムを鳴らす。幕張匠の恰好でありながら、片手には筆記用具一式の入った鞄を持っている。我ながらミスマッチだけれど、雅の要望なので仕方がない。挙句の果てに、雅はその要望を告げた日から三日間学校を休むときた。別にだからどうというわけではなかったけれど、課題の締切はそう遠くないはずだし、それなのに全く音沙汰がないとなれば妙な胸騒ぎがした。雅の住んでいるマンションは知っていたので、ポストから「菊池」の名前を探して訪ねた。


「……雅?」


 チャイムを鳴らして暫く経っても返事はなかった。家にも学校にも、いつもの場所にもいないなんてどうなってる。他に行く場所なんてないはずだ、そう不審がって玄関扉を開けた。そう、開いていた。ギィ、とありふれた音と共に見えた家の中は、昼間の明かりのお陰で辛うじて明るいだけで、電灯の明かりはなかった。


「……雅?」


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