第二幕、御三家の嘲笑
 それなのに、雅と私との間には温度差があった。心底どうでも良さそうに、雅は自分の力で立つのも億劫そうに私を見る。そんな目を幕張匠であるときに向けられたことはなかった。ギリッ、と知らず歯軋りしていた。


「なんで学校来なかった」

「あの男が帰って来てたから。アイツ、俺が外行くと怒るんだよ。お前も逃んのかって」

「だからって黙って殴られんの?」


 一番最初に聞こえた音は雅を殴った音だろう。その口の端には血が滲んでいた。


「別に……今日は口答えしたから殴られただけだし。三日もあの男がいるのはさすがに疲れるわ」

「じゃあせめて殺されそうなときくらいは避けろよ!」

「なんで?」

「は?」


 はぁ、と雅は疲れた溜息を吐いた。そんな顔を雅が私に見せるのは初めてだった。


「いいじゃん、別に、殺されても。それはお前に関係ねーじゃん。ほっとけよ、俺が死ぬことくらい」


 その感情を、知っていた。同じ感情が私にもあった。だから漸く分かった。お互いに一緒にいることがなんとなく心地よかったのは、お互いに無根拠にシンパシーのようなものを感じていたからなんだと。そしてその根拠は、今まで知らなかっただけで確かにあったのだと。

 だから、間違えた。雅とは仲が良くても、何も言わないまま一緒にいようと思っていたのに、雅の胸座を掴んでいた私は、手と共に我儘を押し付けた。


「……雅が死んだら、私が寂しい」


 ずっとずっと、寂しかった。雅と一緒にいた理由はその寂しさを埋めるためだった。お互いに同じ寂しさを持っていたせいで埋まらないものを埋めようとしていた。


「私も同じなんだ。同じだから……、そんなこと言わないで……」


 私達の生きている価値を、私達は知りたかった。
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