第二幕、御三家の嘲笑
 八月二日。月影くんの誕生日。それに合わせて松隆くんの別荘へと出発することになっている本日のコンディションは、控えめに言って最悪だ。悪夢に(うな)されたことは……正直そんなに珍しいことでもないしいいのだけれど、メンバーの三分の二と非常に気まずい空気を漂わせる自信しかないせいだ。そのうちの一人からは「迎えに行くから駅の前で待ってて」と何事もなかったかのように平然と連絡が来たけれど、私は彼と違って平然とできない。寧ろ何事もなかったかのように連絡をしてきたし、それどころか事前に手を回してきさえした。最悪だ。荷物を持って駅前に立ち、深い溜息を吐きたいのをぐっと堪えていると「桜坂」とまさかの一番名前を呼ばれたくない人の声に呼ばれた。ゲッと顔が引きつるのを感じながら辺りを見回し……、黒いバンから出て来るその人を見つけた。


「……おはようございます」

「おはよ。車乗って、荷物は入れるから」

「え、いえ、大丈夫です、自分で持ちます」

「いいから」


 ひょいと私から荷物を受け取ると、松隆くんは扉を開けて私を促す。奥には桐椰くんがいる時点でゲッと余計に顔が引きつった。でも腕を組んで窓に凭れて目を閉じているから……、寝てる? 八時なので寝ていてもおかしくはないけれど、桐椰くんにそう朝が弱いイメージはなかった。


「遼は車に乗ると寝るから」


 背後からの説明にぎょっと体が竦む。松隆くんは私の荷物を載せ終えたらしい。早く座りなよ、とまた促され、おそるおそる桐椰くんの隣に座り込む。……なんでよりによって気まずい二人にピンポイントで挟まれなきゃいけないんだ。御三家と私が乗り込む組み合わせなんて二十四通りあるはずだ。いや、後部座席の並びは左右を同じと考えれば十二通り。それにしたってその中で最悪の一通りで座ることになるなんてどういうことなんだ。また腹黒リーダーの思惑通りか! 涼しい顔をして助手席に座っている月影くんの横顔を恨みを込めて睨みつけていると、殺気でも感じたのか、月影くんは振り向いた。


「乗り物が苦手なんでな」

「私も乗り物苦手だなー」

「寝てろ」

「冷たくないですか!?」

「で、ちゃんと乗ったのかしら?」


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