第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂、降りろ」

「そこまで言う!? しかも私、月影くんのこと攻撃してないじゃん!」

「冗談は顔だけにしなさいよ」

「それはJKだけにですか?」

「よし小娘、降りろ」

「嫌です! 私車酔いしてません!」


 ドスの利いた声にぶるぶると震えるけれど、いつも庇ってくれる桐椰くんはお休み中だ。車が揺れるタイミングでぴくりと動いている気がするけれど、起きる気配はない。なんなら起きても今は余計に気まずいだけか……。


「ところで、よしりんさんはいつも御三家の旅行についていくんですか?」

「んーん、いつもじゃないわ。今回は貴女がいるって言うから」

「……それはつまり私の顔面をチェックするために」

「分かっててその顔なんて、いい度胸してるわね」

「いえ、いらっしゃるとは知りませんでしたから……。いつもは御三家だけなの?」


 月影くんに話を振り直せば、「彼方兄さんかうちの兄貴かどっかの親がついてくるよ」とまさかの松隆くんから返事が来た。求めてません。……と言うわけにもいかず、「へー、そうなんだ」と普通を装う。


「松隆くんと松隆くんのお兄さんって似てる?」

「全く似ていない」


 きっぱりと、月影くんが答えた。寝るのは諦めたのかな。降りろって言われそうだからその点については何も言わずにおくけれど。


「そうなの? 腹黒くない?」

「なんで顔の話だと思わなかったの?」

「栄一郎兄さんは顔がおばさん似だからな。性格も腹黒いとは程遠い。穏やかで女好きではない彼方兄さんみたいなものだと思ってくれ」

「なにその完璧な人」

「腹黒いのが欠点みたいに言わないでくれる?」


 アームレストに頬杖をついた松隆くんが心外そうな声を出す。私が彼方の女好きをさり気無く貶したことについて誰からもツッコミはなかったということは、みんな同じことを思ってはいるということだ。


「桜坂は?」

「ん?」

「どっちに似てるとか言われないの? 父親と母親」

「父親似だよ」


 月影くんがフォローでも入れようとするかのように口を開きかけた気配がしたけれど、構わず即答した。ありがちな質問になんでもないように答える準備なんていつでもできている。


「目がお父さんそっくりなんだって。あと髪質も若い時のお父さんみたいらしいよ」

「ふぅん。長女は父親似っていうもんね」


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