第二幕、御三家の嘲笑
 何も疑問などなさそうに松隆くんは頷いた。長男は母親、長女は父親、次男は父親、次女は母親。根拠も何も知らない、そんな一般論──というかよく聞くこと──は、当然のように私達兄妹にも当てはまる。例外だっていくらでもあるはずなのに、一般論だから〝奇しくも〟なんていうべきでもないけれど、奇しくも。



 結局、パーキングエリアに着くまで月影くんは眠れず、松隆くんは無視されることを許さず、私はよしりんさんの罵声を免れず。車が止まると同時にほっと一息つく。松隆くんと桐椰くんに挟まれて居心地が最悪だったというのもあるけれど、何より車に乗って移動するのは久しぶりだから、贅沢にも乗っているだけで疲れた。


「アタシ、コーヒー買って来るわ。各自必要なものあるなら行ってよし。遼ちゃんが留守番するでしょうしね」


 寝ている桐椰くんは勝手に留守番係にされた。よしりんさんがドアを開ければむわっと夏の熱気が舞い込む。月影くんは顔をしかめたけれど、やや悪い顔色で「水を買う」と呟いてドアを開ける。私は用事はないけれど、あわよくばこのタイミングで席替えをして助手席を譲ってもらうか、それが無理でも端にしてもらおう。


「桜坂は?」

「気分転換に外出ようかな。松隆くんは?」

「朝ご飯食べ損ねたから買う」


 もう起きてからだいぶ経ったのでは、と思うけれど、デリケートそうな松隆くんは寝起きはあまり食べないのかもしれないと勝手に納得した。口にすると怒られそうなのでやはり黙っておいた。桐椰くんがいる側からは車を出ることができないので、松隆くんが出るのを待って出ようとした。……けれど、思わず体を硬直させてしまった。突然言葉に反する行動をとった私に、当然松隆くんは怪訝な顔を向ける。


「桜坂?」

「……暑いからやっぱりやめとく」

「そう。それなら閉めるよ」


 松隆くんは軽く肩を竦めると、バンッとドアを閉めてくれた。コンクリートを焼く日差しが眩しいらしく、歩きながら片手で目を庇っている。その様子を暫く観察していたものの、そんな現実逃避はこんな狭い空間では許されない。日差しが遮られ、クーラーで涼しい車内で、ごくんと緊張で唾を飲む。


「……いつから起きてたの」

「……ここ着くくらい」


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