第二幕、御三家の嘲笑
「支離滅裂なんだよ、お前の言ってることは。嫌だったなら嫌だったって言えばいいじゃん」


 それすら言えない理由があって、その理由を桐椰くんに言うことはできない。ぎゅっと唇を固く結んで沈黙すれば、桐椰くんも黙る。


「……お前は、俺に何を隠してんの?」

「……そんなの、わざわざ気にすることじゃないよ。桐椰くんにだって秘密くらいあるでしょ」

「俺に秘密があるのかは知らねーし、お前の秘密ならなんでも聞きたいとかそういうことは言わねーけど。俺がお前を理解ったふりしてるって思うなら、理解ってるって思えるまで話してくれてもいいんじゃねーの」

「……桐椰くんはただの友達じゃん」


 なんなら、今、御三家の中で一番距離の遠い人は桐椰くんだ。月影くんと違って私の正体など裏があると疑ってすらないレベルで知らないし、松隆くんと違って私と幕張匠との関係を雅の嘘以上には知らない。それなのに、話せるわけがない。


「……ただの友達だと話せないわけ」

「そういうわけじゃないけど……特別に話す理由がないじゃん」


 理由はない。だから話さない。それは合理的で、何も間違ってない。そのせいで縮まらない距離は少しだけ寂しいけど、それは仕方がないことだ。また沈黙が落ちた。空気が重い。ややあって、桐椰くんは小さな溜息を吐いた。


「お前、頑固だな」

「多分松隆くんほどじゃないと思うから許してほしい」

「……別にいいけどさ。言いたくないなら言わなくても」


 ずしりと、頭に手が載った。ん? これは撫でられているのではない……押さえつけられている……。


「……桐椰くーん? あの、無理矢理謝罪させるような頭の撫で方はいかがなものかと……」

「撫でてねぇからあってんだよ」


 顔を上げるつもりなんてなかったのだけれど、押さえつけられると逆に上げたくなってしまう。ぐぐぐっと首に力を入れるけれど、当然桐椰くんの手の力には敵わない。反抗するようにその足をぺちぺちと叩くと、ゴツ、と頭頂部近くと桐椰くんの額がぶつかった。


「……なんの儀式ですか、これは」

「儀式じゃねーようるせぇな。……言いたくないこと問い詰めて悪かったって言ってんだよ」


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