第二幕、御三家の嘲笑
「今朝、わざわざ釘差しに来やがった」

「雅が桐椰くんに? 何で?」

「御三家の一人だかなんだか知らねーけど、人の元カノに手出すなってな。誰がお前なんかに手出すかよ」

「分からないよ? 今日のプールの授業の後は水も滴るいい女かもよ?」

「お前が水浸しでもネズミにしか見えねぇよ」


 桐椰くんの返しが松隆くんに似てきた。これはよくない傾向だ。


「大体、お前もあの菊池とかいうヤツと付き合ってたのは昔の話なんだろ? 何で未だに手を出す出さないに首突っ込まれてんだよ」

「なんでだろうねー?」

「……お前も何で文句言わねーんだよ」


 平然と返したつもりなのかもしれないけれど、桐椰くんの口元はぴくぴくと引きつっている。私の煽り態勢が強いというのなら、桐椰くんの煽り耐性はすごぶる弱い。


「なんで……って言われても、別に迷惑してないし」

「……あれで?」

「うーん、私は誰と付き合いたいとかないからなあ。雅がいくら牽制してても関係ないよ」


 それに、雅の牽制は的外れにもほどがある。御三家と私とは、主従関係から仲間に昇格したとはいえ、圧倒的に力関係が違う。そう、結局は力関係でしか推し量れない関係なんだ。松隆くんも恋愛関係は御免だと言ってたし。


「あ、でも桐椰くんにわざわざ会いに来るのは桐椰くんにとって迷惑なのかな?」

「よく気付いたな、その通りだ。俺はお前を御三家の仲間以上には見てない」

「雅から見たら異性ってだけで特別に見えるんじゃない? 雅、そういうとこあるもん」


 彼方とか、なんて名前を出しそうになって慌てて口を噤んだ。下手に色々喋るのはマズイ。

 ただ、桐椰くんの目は更に不愉快そうに歪む。


「お前、好きなヤツいるって言ったよな」

「あ、うん、言ったね」

「付き合ったことある男の数は一人だって言っただろ」

「うん、言ったね」

「……じゃあ、お前の好きな相手は――」

「コイバナしたいなら最初からそう言ってくれたら相談に乗るよ? 蝶乃さんと上手くいかなかった原因とか考える?」

「うるせーよ!」


 ダンッ、と机を叩いた桐椰くんはそっぽを向いた。だから松隆くんにも扱いやすいとか言われるんだよ。仕方なく前を向いてホームルームの始まりを待つ。

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