第二幕、御三家の嘲笑
 ……別に、桐椰くんは当然のことを訊いただけで何も悪くない。私が八つ当たりしただけだ。どうせ桐椰くんだってそれを分かってるくせにそう言うのは、私から謝ることなんてないと分かってるからだ。そういう気遣いが、私みたいな人間にはとてつもなく痛い。


「もう聞かないから」

「……すいません」

「……何も言わなくていいから、嫌なときには無理すんなよ」


 チクチクと、罪悪感が良心を突き刺す。返答に窮して、頷くに留めた。桐椰くんの手も額も離れてしまって、少しだけ名残惜しい。そのせいで、さっきまで手の触れていたところを自分の手で押さえた。


「……なんだよ。別に何も悪戯してねぇぞ」

「……なんでもないよ」


 形を確かめるように、もふもふと数回軽く撫でてから手を下ろす。きっと桐椰くんと私の距離なんてこんなものだ。いつか忘れるだけの感触を時々思い出すくらいしか、きっと私と桐椰くんの距離は縮まらない。


「……最後に一つ訊いていい」

「いいよ、答えるかどうかは別だけど」

「……お前が言えない理由って、いつか話してくれるの」


 距離が縮まらなくても、時さえ経てば話せることか。やっぱり桐椰くんって頭は良いんだよなぁ、と感心しながら笑って頷いた。


「うん、いつかはちゃんと話すよ」


 家族のことはバレない限り一生言わないけれど、私が幕張匠だということは、高校を卒業してここを離れる頃なら、きっと言えることだ。だってそれならもう桐椰くん達に会うことはないから。

 桐椰くんは安心したように「そっか」と返事をした。我儘にも、良心はまたチクチクと痛んだ。

 それから数分と経たない内にみんな戻ってきて、よしりんさんは開口一番「あっちー、夏とかマジ死ねよ本当」と口にし、うっかり男性になっていた。松隆くんも「夏とか本当やめてくれ」と言いながら乗り込んできたし、無言の月影くんも太陽が迷惑だったかのように眉間に深い皺を刻んでいた。


「遼、要るか」

「あぁ要る、サンキュ」

「あー、桐椰くんだけずるいー。ツッキー、私の分はないのー?」

「君の好みは知らん」


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