第二幕、御三家の嘲笑
 なるほど、桐椰くんはオレンジジュースばっかり飲むって知ってるからね。月影くんが桐椰くんにオレンジジュースを手渡すのを頬を膨らませて見ていると、その腕の下をくぐって綺麗に無駄毛を手入れした屈強な腕が伸びてきて天然水をくれた。


「あ、ありがとうございますよしりんさん!」

「女の子が水分補給怠るんじゃないわよ。言っとくけどこの三日間すっぴんは許さないわよ」


 そしてやはり私の顔を一瞥すらしない。「はい……」と大人しく返事をすれば、車は出発する。


「ていうか、貴女、水着は買ったの?」

「あぁ、そうですね……リーダーのセクハラじみた命令があったので妹のものを借りてきましたね……」


 セクハラという言葉を強調すれば空気が凍った。いや、凍ったまで言うのは大袈裟かもしれないけれど、「お前マジかよ」と言いたげな意識が一斉に松隆くんに向いたのだけは分かった。それだというのに張本人はどこ吹く風といわんばかりにけろりとしている。


「え、持ってこないなら趣味着せるよって言っただけだろ?」

「それセクハラだよ! ですよねぇよしりんさん!」


 一番性別の近そうな人に助けを求めれば脊髄反射に頷いてくれると思ったのに、なぜか「うーん……」と難しそうな声を出した。


「まぁ……貴女と総ちゃんの距離感次第ね……。普段からセクハラするような仲ならセーフ」

「寧ろそれはどんな仲なんですか?」

「あぁじゃあセーフじゃん、俺と桜坂の仲なら」


 ね? と笑顔を向けられて完全に私が凍りついた。

『好きだよ、桜坂』

 今日だけでその光景が何回フラッシュバックしたことか。顔が真っ赤になって言葉が出てこない。


「というわけで文句はないらしいよ」

「ま、待ってくださいリーダー……文句はあります……」

「安心しろ、誰も君の水着になど興味はない」

「……普段なら怒るとこだけど、今だけはツッキーの興味のなさがとても嬉しいです」

「あら、言っとくけどアタシは興味あるわよ」


 興味──なんて言われたら動揺してしまうのが通常だけれど、今のよしりんさんの低い声を聞けばそんな生易しい反応はできない。これから来る質問に対する返答次第では〝興味〟が〝殺意〟に変わると直感して緊張で体が強張った。


「え……っと、それはどういう……」

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