第二幕、御三家の嘲笑
 頬を抓られていただけだったのに、バシィッと景気の良い音と共に頭を思いっきり殴られた。顔こそ赤くなってないものの、ずっと反応に困っていたのはよしりんさんの言う通りらしい。とはいえ、つい十数分前は優しい手が載っていたというのに酷い仕打ちだ。


「白とかいいんじゃないの、桜坂」

「聞いてないよ松隆くん」

「まぁ白もいいけど……今年は花柄が流行ってるから、白地に花柄かしらねぇ」

「え、松隆くんの要望聞くんですか? え?」

「勿論似合うのが最優先よ。迷ったとき用に要望は聞いておくものよ」

「じゃあツッキーの要望聞いてあげるね」

「別荘で待機してくれ」

「水着の要望です、行動の要望ではありません」

「ってわけで、早く調べなさい」

「……はい」


 もしかしたら、持ってきた着替えも文句を言われるかもしれない。いや、化粧をしていない私を見越して未だ一度も目が合わないくらいだ、よしりんさんが私用の服をいくつか持っていても不思議ではない。申し訳ない気持ちになる反面、なんで私がこんな目に……?と誰かに慰めてほしくなる。


「貴女いま、なんでこんなことに、とか思ってたら降ろすわよ」

「いえ、よしりんさんがいてくれて本当に心強いなって思ってます。感謝感激雨霰(あめあられ)ってやつです、はい」


 そして何でもお見通しだ。大人しく近場の水着売り場を検索した。



 私とよしりんさんが水着を買いに行くという計画のもと、松隆家の別荘に男三人が降ろされることになった。別荘前に到着すると三人がぞろぞろと降りて荷物を降ろし、「吉野の分入れとく?」「あらありがとう、気遣いに免じて呼び方は訂正しないでおくわ」「総、荷物少なくないか?」「だってある程度ここにあるし」と遣り取りをしている。私は今は別荘内部の様子は見ることができないけれど、窓から顔を覗かせるまでもなく、オーシャンビュー、庭園付でカントリー風の豪勢な外観だけは把握した。


「うわぁ……一戸建てかぁ……」

「半分くらい税金対策だよ。収入にもなるしね」


 ただの独り言だったのに、松隆くんの興味なさそうな声が答えた。それに返事をするべきか迷っているうちに扉が閉まり、三人がそれぞれ荷物を持って玄関に向かうのを見ることになる。三人が安全圏に移動したのを確認した後、よしりんさんは再び車を動かした。


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